マーケティングの現状と未来を語る

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「ATPツアーファイナル」開幕、テニスとラグビーの人気分析

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※写真は筆者が訪れた2015年の全米オープンでの錦織圭選手

いよいよ男子テニス最終戦のATPツアーファイナルが始まった。昨年初出場ながらベスト4に入った錦織圭選手は、今年もランキング第8位に入りATPツアーファイナルに出場できることになっている。今年、世界ランキング第4位まで上がったこともある錦織圭。ただ2014年は全米オープン準優勝などわかりやすい結果を出したことと比べると、2015年の成績にはやや物足りない印象を持っている人もいるかもしれないが、2年連続で世界のトップ8に入っているということは前例のないことで、2014年に続き日本テニスの歴史を塗り替えているのだ。

 

今回は、2014年から人気沸騰したテニスと2015年に人気沸騰したラグビーを比較したい。二つのスポーツに共通した人気沸騰のポイントに触れるとともに、二つのスポーツの可能性を比較してみたい。

 

「錦織 × エアケイ」から「五郎丸 × 五郎丸ポーズ」が示すもの

 

2014年、テニスはもっとも旬なスポーツになった。その理由は、錦織圭選手の躍進だ。前述の通り、全米オープンで準優勝し、ATPツアーファイナルでもベスト4に入った。一般的には、そのスポーツが世界レベルで強くなれば、スポーツ人気は高まる。しかし、強くなるだけでは不十分で、そこに飛び抜けて強い選手とアイコンとなる武器があることが重要だ。強い選手がいて、アイコンになる武器があることで、そのスポーツは、それまでまったく興味のなかった人たちにまで浸透していくのだ。2014年は錦織選手がその存在だった。錦織選手にはエアケイという武器があった。エアケイはテニスを知らない人にもわかりやすく、子供達までがテニス教室に通い、ユニクロのウェアを着て、エアケイの真似をした。

 

2015年にもっとも旬になったスポーツはラグビーだ。それまで1勝しかしたことがなかったワールドカップで3勝を挙げる快挙を成し遂げた。その中には優勝候補であった南アフリカもいた。歴史的快挙を成し遂げたラグビー日本代表。その中心にいたのは五郎丸歩選手だ。そして、五郎丸選手がキックを蹴る前にする五郎丸ポーズが大人気になった。カンタベリーショップでは代表のレプリカユニフォームが完売となり、年明けまで入荷しない状況が続いている。五郎丸ポーズを真似る小学生も続出している。まさに2014年のテニス、錦織人気と同じ構図である。

 

重要なことは、強さの定着

 

テニスにしても、ラグビーにしても「強くなった競技 × ヒーロー(ヒロイン) × アイコン(となる武器)」があったため大人気になった。ただ、これが続くかどうかは、その競技が強くあり続けることだ。そのためには、ヒーロー(ヒロイン)に続く第二、第三の存在が出てこなければならない。

 

テニスに関しては、錦織圭選手が2014年に続いてATPツアーファイナルに出場し、世界一を獲得できる可能性を感じさせるほどのポジションにい続けている。それだけでなく、テニスの国別対抗戦デビスカップでダニエル太郎選手が活躍したり、全米オープンなどで西岡良仁選手が活躍するなど第二、第三の存在になりうる若い選手が育ってきている。2014年ほど目覚ましいニュースはないものの、着実にその素地が出来ているのだ。

 

ラグビーに関しては、7人制ラグビーの2016リオオリンピック出場も決定した。また、2019年のラグビーワールドカップ日本開催に向けて、注目も集まってくるだろう。選手でも、リーチ・マイケル選手、山田章仁選手など実力と人気を兼ね備えた選手がいる。

一時期、日本のマイナースポーツ界では、ヒーローやヒロインを作ることで、メディアの注目を集め、人々の注目を集めるPR的な戦略を取っていた。確かに一時的には、そのルックスや言動によって注目は集めることができる。しかし、彼らが世界のトップと互角に戦える状況にならなければ、そのスポーツ自体の人気が定着することは難しい。テニスも、ラグビーも世界のトップと互角に戦えることを証明した。これからは、ヒーロー・ヒロインやアイコンがあるのと同じ以上に、これからも世界トップと互角以上の戦いをしていくことが人気上昇の鍵になってくるのだ。

 

ラグビーとテニスの可能性の比較

 

ラグビーとテニスを比較してみよう。

 

ラグビーがテニスよりも盛り上がる可能性がある点としては、国内リーグが充実している点だ。テニスが錦織選手をはじめとするトップ選手の試合を国内でなかなか見られない一方、ラグビーは国内で試合が見やすい状況にある。また2019年に世界最高を決めるワールドカップの日本開催が決定している点も有利だ。テニスは全豪、全仏、全英、全米の4つのトーナメントとATPツアーファイナルが世界最高峰の試合だ。日本で最高ランクの試合は楽天オープンで、最高峰レベルの試合はない。2015年はバブリンカ、錦織、チリッチなどが出場したがビッグ4と呼ばれるジョコビッチフェデラー、マレー、ナダルは出場しなかった。以前のブログ(「錦織圭選手は2015年にどれだけの経済効果をもたらすのか?」)にも書いたが、日本でテニス人気がさらに沸騰するためには、世界最高レベルの試合を日本で見られる環境が重要であり、できればATPツアーファイナルの招致を実現させたいところだ。

 

テニスがさらに盛り上がる可能性がある点としては、競技者の裾野の広さと多いことだ。テニスは老若男女がプレーできる。錦織選手を始め、日本テニスが強くなれば、さらに人気は高まるだろう。長年に渡り、テニスコートは減少傾向にあり、テニス人気も停滞気味であったが、錦織選手の活躍以降、都内各地のテニスコートが取れない状況も増えてきた。

 

ラグビーにも大きな可能性はある。過去を振り返っても、ラグビーがここまで人気になったことはない。言わば初めてのことだ。したがって、人気が拡大していくポテンシャルは大きいとも言える。しかも、今は男子ラグビーが人気だが、女子ラグビーもある。サッカーでも、なでしこジャパンが活躍し、大人気になったように、女子ラグビーにも期待がかかる。すでにラグビーをする女子もいるが、今後は見るだけでなく、実際にプレイする女子も増えていくだろう。

 

日本での競技人口は、テニスは約500万人に対してラグビーは約50万人にも満たないが、単純に競技人口の比較ではなく、テニスにもラグビーにも将来的には大きな可能性が秘められているのだ。

 

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「昼マック」中止の消費者反応をマクドナルドの経営者はどう感じているのか?

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2015年11月11日、日本マクドナルドホールディングス(以下、マクドナルド)の平成27年12月期第3四半期の連結決算状況が発表された。

 

全店売上高は、273,914(百万円)対前年比 -20.4%とまだまだ厳しい状況が続くものの、第2四半期の数字と比べると改善傾向が見て取れる。

 

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■ 1分間でわかるマクドナルド凋落の理由と現状

マクドナルドの品質面については、2014年夏の製造過程における品質安全問題発覚以前より疑問に思う人たちは一定数おり、ドキュメンタリー映画の題材にされてしまったこともある。マクドナルド側としては、品質面の安全性についてはことあるごとに主張するとともに、社会貢献活動などをアピールしたり、子供に人気のキャラクターを起用したキャンペーンを次々に展開することによって、メインターゲットであるファミリー層をはじめ、顧客の気持ちを離さないように活動していた。ただ、日本においてはマックカフェへと店舗が改装されるようになってから、ファミリー層にとっては良い店ではなくなっていった。

 

そこに出てきた品質安全問題。従来からモヤモヤしていた問題が顕在化してしまったことで、安全面をもっとも気にするファミリー層の気持ちは一気に離れていってしまった。2015年になっても異物混入問題が発生し、マクドナルドへの不信感は収まるどころか、さらに加速してしまった。来店者数、売上高などすべての数字が前年比二桁割れの状況が毎月のように続いた。ようやく改善の兆しが見えたのが2015年8月だ。前年割れは続くものの、久しぶりにマイナスは一桁台を記録し、9月、10月とようやく下げ止まり感が出て、底が見えてきたのだ。しかし、ここにたどり着くまでに、かなり深いところまで来てしまった。2010年の売上高約3238億円と2014年の売上高約2223億円を比べれば、約1000億円のマイナス、売上規模としては2/3程度に減少している。売上高の最高を記録した2008年約4064億円と比べると約半分になっているのだ。普通の企業であれば、存続することすら危うい状況だということがお分かりいただけるだろう。

 

■ 2015年春からのマクドナルドが行ってきたこと

2014年7月の使用期限切れ鶏肉問題、2015年2月の異物混入問題があった後、2015年春あたりから、カサノバCEOの動きが多くなった。ママたちから意見を聞いて商品開発などに役立てるプロジェクト「Mom's Eye Project」に参加したり、店頭スタッフのホスピタリティを改善しようとしていた。また、店頭においては一度廃止したカウンターメニューを復活させ、商品面においては限定商品の開発に力を入れるなどした。原田前CEO時代に加速させたFC化の推進によって、FC店は直営店の約2倍となった。一時期、利益はどんどん上がったが、FC店への締め付けは厳しく、FCオーナーは疲弊し、それに伴い店舗も疲弊していった。FCとの関係を改善しようと、2015年度はFC対策に年間で120億円強の費用を計上している。

 

■ 「昼マック」の登場

そもそもマクドナルドが日本人に支持された理由は、そこそこ安くて、そこそこ美味しくて、居心地が良く、安心して食べられたからだ。ところが、マックカフェで高級感と美味しさを追求するようになり、居心地があまり良くなくなり、安心感がなくなった。利益率や利益額は上昇したものの、それはFC化推進によって生み出されたものであり、その歪みはFCの悲鳴となり、現場の動きはさらに悪くなった。これだけのネガティブな要素が重なれば、売上・来店客数など、前年比二桁割れが続いても不思議ではない。今まで支持されてきた理由と反対のことばかりやってきたからだ。

 

それを、2015年春からもう一度取り戻そうと努力してきた。多少の努力で変わるものではないが、その方向性は間違っていない。FC店への配慮はもちろん、昼マックの導入もそうだ。この結果が2015年8月あたりから少しづつ出始めたのだ。

 

■ 「昼マック」の中止と「おてごろマック」の登場

2015年10月下旬、「昼マック」が終了し、その代わりに「おてごろマック」が始まった。昼に特化して安くする戦略をやめ、終日にわたって安く食べられる戦略に切り替えた。結果、昼のセット価格は数十円の値上げになったが、その他の時間帯においては値下げとなっている。

 

「おてごろマック」では、200円バーガーのメニューを充実させた。そしてハンバーガーに自らニックネームをつけた。エッグチーズバーガーをエグチ、バーベキューポークバーガーをバベポ、ハムレタスバーガーをハムタスとし、店頭だけでなくCMなどにおいても積極的に打ち出している。セット価格にしても500円からというメニュー構成だ。

 

余談になるが、広告の実務も多く経験している立場から言えば、メーカー自ら商品にニックネームをつけるということ自体、センスは感じられない。ニックネームとは、消費者が愛着を持ったり、楽しんだりして自発的につけるものだからだ。ただ、なんとかしようというマクドナルドの思いのようなものは、ここから伝わって来るものがある。

 

■ マクドナルドが勘違いしている消費者

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マクドナルドの経営陣が真剣に考えた方が良いのは、なぜ「昼マック」中止が消費者に叩かれたのかということである。例えば、牛丼が値上げしても、企業はここまで叩かれてはいない。マクドナルドはなぜ叩かれたのか。

 

今回のマクドナルドは単純な値上げではない。新しいメニューは一日を通して比較的安価に食べられるという点で消費者にもメリットがある。おそらく通常の企業であれば、消費者もメリット・デメリットを冷静に判断し、ある程度の評価もしただろう。しかし、マクドナルドの置かれている状況は完全に異なるのだ。消費者の信頼を裏切り続けた結果が今の状況になっている。その状況下で「昼マック」は登場し、消費者は少しだけマクドナルドに戻ろうとする兆しを見せ始めていたのだ。そこに対して、マクドナルドは「昼マック」をやめるという決断を下してしまった。マクドナルドは本気で消費者のメリットのになると考え、新しい販売方法を選択したのかもしれないが、またマクドナルドは消費者の期待を裏切り、値上げしたという気持ちになる消費者も少なくないのだ。

 

それより怖いのは、マクドナルドが以前ほどは叩かれなくなったことだ。こちらの方が問題の根が深い部分がある。マクドナルドに完全に期待せず、どうでもよくなった人が増えてしまったのだ。クレームを言うのは、野次馬だけではない。本当にマクドナルドのことを好きだったからこそ、熱い気持ちになってしまう人もいるだろう。しかし、叩かれなくなったのは無関心の人が増えているということでもあるのだ。

 

消費者の信頼はまだまだ戻らない。四半期や月次に出される数字以上に、昼マック中止の一連の消費者の反応をは、今のマクドナルドが置かれている状況をシビアに物語っているのだ。

ラグビーW杯、日本に熱狂をもたらした3つの法則

ラグビー史上はおろか、スポーツ史上最大の番狂わせと言う人まで出るほど世界中に衝撃をもたらしたラグビーW杯の日本vs南アフリカ戦の結果。多くの人が知っている通り、終了直前の逆転トライにより日本が34vs32で勝利した。一気に注目度が高まったラグビー。ここまでの熱狂を生まれた裏には、それだけの理由があったのだ。

 

■ 熱狂の法則1:「世界トップ」への挑戦

 

世界に挑み、互角に戦うことが出来た時、スポーツは盛り上がる。W杯で優勝候補にも挙げられていた南アフリカ(試合前:世界ランキング第3位)という国に勝利した意味は大きい。仮に数十年ぶりの勝利だとしても、相手が世界ランキング10位あたりの国であれば、ここまでの盛り上がりにはならない。優勝候補に挑み、勝利したからこそ、日本中はここまで盛り上がったと言える。

 

この法則は、ラグビーだけに当てはまる話ではない。野茂英雄さんがメジャーリーグに挑戦し、ノーヒットノーランを達成した時。サッカーで三浦知良選手が当時世界最高峰と呼ばれたサッカーリーグセリエAジェノバに移籍し、ゴールを決めた時。テニスの錦織圭選手が全米オープンで世界ナンバーワンのジョコビッチ選手を破り決勝進出を果たした時。それまでの日本人の常識が覆った瞬間、日本中は熱狂に包まれたのだ。

 

■ 熱狂の法則2:トライの裏にある「ストーリー」

 

南アフリカ戦、終了間際、最後のワンプレイで日本代表は逆転トライを決めた。多くの日本人はラグビーのルールをあまり詳しくは知らなかっただろう。この人たちは、歴史的勝利の裏にある、逆転トライの意味を後から知ることになった。

 

それは、最後のプレイには選択肢があったということだ。トライより安全なキックでのゴールを狙い同点を目指すという選択肢と、負けるリスクは高くなってもトライを狙って逆転を目指すという選択肢だ。世界中から勝てるわけがないと思われていたにも関わらず、日本は同点狙いではなく、あえて逆転のトライを狙い、達成した。人々は、このドラマが生まれたストーリーを後から理解し、熱狂はさらに増したのだ。

 

■ 熱狂の法則3:競技を代表する「スター」

 

あるスポーツが一気に盛り上がる時には、その競技を代表するスターの存在がある。また、大人が話題にし、子供が選手の真似をしたくなるような”わかりやすい特徴”をその選手が持っていることも多い。野茂英雄氏のトルネード投法三浦知良選手のドリブルとカズダンス錦織圭選手のエアケイ。ラグビーで言えば、五郎丸歩選手だろう。今回の試合でも、五郎丸選手は多くのPKを決めた。五郎丸選手はPKを蹴る際に拝むようなポーズをとる。そのポーズは特徴的だ。そして決めて欲しい時にきっちりと信頼に応える実力もある。特に五郎丸選手にはラグビーを代表するスターの資質が感じられる。多くの人がそれを感じるからこそ、大いに期待し、競技は盛り上がりを見せるのだ。

 

■ まとめ

 

多くの人が注目もせず、ルールも知らない中で、ラグビーがここまで大きな熱狂を日本にもたらした理由は

 

1. 世界トップへ挑戦し、勝利したこと

2.   逆転トライの裏に、感動的なストーリーがあったこと

3. スターの資質を秘めた選手がいること

 

この3つの法則があれば、人々は熱狂し、その競技は盛り上がる傾向にある。絶対に不可能だと思われることを達成し、そこには子供たちまで憧れるスター選手の存在がいる。そして、より深く知ろうとすると、実は勝利の裏にはさらに感動をもたらす物語がある。勝利しただけでも、スター選手が現れただけでも、ここまでの熱狂にはなりにくい。これら3つの法則が当てはまったからこそ、熱狂は起きているのだ。

 

■ 「日本ラグビー」の未来

 

本来、2019年に日本で開催されるラグビーW杯は、新国立競技場こけら落としで行われるはずだった。ところが、新国立競技場建設問題があり、それは夢となった。そんなネガティブな話を吹きとばす南アフリカ戦の勝利だった。今回のW杯の最終的な結果はまだ先の話になるが、結果がどうであろうと南アフリカに勝利したという大きなきっかけを掴んだことは日本ラグビー発展のためには大きな要素だ。

 

今後、五郎丸選手をはじめ、チームとしてだけでなく選手個人への注目度も高まるだろう。ここ数年、あるカテゴリーにブームが到来する時には、「◯◯ガール、◯◯女子」という女子ファンが人気を後押しするケースが多くあった。ラグビーに関してもさっそく、「ラグ女」「ラガール」と呼ばれる女性ファン層がメディアでも取り上げられるようになってきた。

 

また、南アフリカ戦後、赤と白のストライプの日本代表シャツを販売する店では完売状態のところも多い。サッカー日本代表戦では、多くの人が青い代表シャツを着て応援するシーンが当たり前になっている。

 

今後、ラグビーが盛り上がるためには、競技的には世界のトップと互角に戦っていくことが重要だ。勝ち負けを争うのがスポーツであるから、これは当然のことだ。しかしそれだけではない。マーケティング的にもやれることは大いにある。それは、ラグビーを見にいく人を増やすことだ。試合の勝ち負けに頼るだけでなく、ラグビー場そのもののエンタテイメント性を高めることだ。メジャーリーグやテニスの四大大会など海外のスポーツの視察をして感じるのは、日本のスポーツの大きな違いは競技レベルだけでなく、エンタテイメントとしての充実度だ。極端に言えば、競技のルールがわからない人でも楽めるのが海外のスポーツだ。ここ数年、日本のスポーツ界も努力はしているが、まだまだ及ばない部分も大きい。ラグビーに関しても同様で、ラグビー場に行くこと自体が楽しいという人を増やすためのエンタテイメント性を高めることも今後は重要になるだろう。

店頭で見えてくる「ユニクロ不振」の本当の理由

2015年6月、ユニクロの国内売上高が減少したことがニュースになった。既存店726店舗の売上高は、前年同月比11.7%減で3カ月ぶりに前年を下回った。客数も14.6%減となった。不調の要因としては、例年に比べて気温が低く、夏物衣料が苦戦したことを挙げている。7月も国内売上高、客数とも前年同期比割れとなり、先行きを不安視する声もチラホラ聞こえるようになった。

 

私が最初にユニクロに触れたのは1990年代後半、千葉県松戸市にユニーク・クロージング・ウェア・ハウスという名前で出店していた店舗の時だ。そこから約20年、低価格はキープしつつ、品質面においては飛躍的に改善されてきた。また企業やデザイナーとコラボレーションする形で製品デザイン面を強化するだけでなく、企業やブランドロゴの刷新、CMやアプリなどプロモーション面の挑戦によってブランドイメージも高めてきた。これだけ適切な経営をしてきたユニクロの売り上げはなぜ失速しているのかをマーケティングコンサルタントの視点で解説したい。

■ 季節要因というユニクロの説明

ユニクロ側の説明は主に2点だ。一つ目は季節要因による売上減によるもの。もう一つは魅力ある商品を投入できなかったというものだ。

 

一つ目の季節要因については、しまむらを始め競合各社の同時期の売上げは好調なことから、原因としてはあるかもしれないが、大きな要因として挙げるのは違うのではないだろうか。そもそもユニクロの夏の定番商品、エアリズムは素晴らしい商品だ。特に熱帯化が進んでいる日本において、軽くてサラサラとしている点はますます重宝されてもおかしくない。ちなみに、個人的感想ではあるが、他社の類似品と比べても着心地や耐久性という面においても優れていると感じている。この点において、ユニクロが売れないとすればプロモーションが機能していなかった部分が大きいということになるだろう。

 

確かに製品マーケティングという観点から見れば、ユニクロが発表したように、エアリズム以外、魅力ある新商品の開発は十分ではなかった印象もある。しかし、もともとユニクロはベーシックカジュアルがビジネスの基盤である。ポロシャツ、ワイシャツ、パンツなど定番の商品について、流行りの影響は受けにくい。ブームやトレンドで売上が増減しにくいビジネスモデルがユニクロなのだ。

 

仮に、2014年よりも2015年の売上目標を高く設定して、その目標数字に到達しないということであれば、不調についてのユニクロの説明にも納得がいく。しかし、売上が前年割れになる都いう発表だったので、ユニクロが気づいていない課題があるのではないかと考えられるのだ。

■ 原因は外国人観光客の減少か

実はポイントはインバウンド、つまり外国人観光客にあるのではないかと私は感じている。ここ1,2年でユニクロは海外出店を強化させている。かつて、日本に来れば良質で機能性にあふれ、価格的にも手頃なユニクロを買うことは海外の観光客、とりわけアジアからの観光客にとっては魅力だった。新宿高島屋を始め都心部ユニクロに行けば、お客さんの半分以上が外国人観光客という状況も珍しくはなかった。外国人観光客が自分のものだけでなく、お土産用としてエアリズムやヒートテックなどを大量買いする姿がそこにはあった。

 

ところが、ここ最近、都心部ユニクロに行くと、外国人観光客の姿が少なくなっているように感じる。全体的にお客さんの数も少なくもなっているが、外国人観光客の少なさも目立つ。デパートの他のフロア、家電量販店などでは、多くの外国人がいるように、外国人観光客数が減ったわけではなく、その中でユニクロを訪れる観光客が減ったのだ。

 

外国人観光客にしてみれば、海外でも店舗が増えた結果、あえて日本でユニクロを購入する必要性が少なくなったのではないだろうか。高性能品、正規品を買いたいから、電化製品、時計、宝飾品、化粧品などは日本で購入するが、あえてユニクロは買わなくても良い存在になってしまったのではないだろうか。

 

2015年、月別外国人観光客数は連続して前年越えを記録している。すでに累計で1100万人を突破し、過去最高の観光客数を記録するのは時間の問題だ。10月には国慶節によって、多くの中国人観光客が来日することだろう。こうした状況の中、ユニクロがどのような戦略を打ち出してくるのか引き続き注目だろう。

熱帯化が生みだした今年のブーム「かき氷」

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この夏、日本全体が熱帯化した。各地で35℃を超える日は珍しくなかった。シンガポールやタイなど東南アジアから来たビジネスパートナーや友人たちが、日本はSuper Hotだと口々に言われた。10年前、20年前と比べると日本は確実に暑くなっている。

 

暑さ増す日本列島とゲリラ豪雨

 

7月下旬から8月上旬に軽井沢を訪れる機会があったのだが、避暑地であるはずの軽井沢も暑くなっていた。もともと軽井沢は夏場でも日中は涼しく、朝や夜は寒いくらいの気候である。したがってエアコンは必要なく、設置していない家も少なくなかった。ところが、ここ数年の猛暑でエアコンを設置する家も増えていると聞く。その軽井沢では日中に晴れていても、夕方になるとゲリラ豪雨が局地的に急襲する日がよくあった。中には避暑地であるべき軽井沢が暑すぎるので、別荘を持っていても、室内が確実に涼しい東京で過ごす人もいたようだ。

 

東京でもゲリラ豪雨はいたるところで見られた。青山近辺では豪雨で道路が冠水しているのに、目黒では一滴も雨が降っていないという日もあった。また同じ日なのに時間の違いによって、晴天と豪雨という日もあった。

 

暑さから発生した”かき氷ブーム”

 

この暑さゆえ、今夏のスイーツブームは、冷たいデザートになった。コンビニやスタバなどのコーヒーショップではフラッペ、フラペチーノなどの飲料が売れた。一時期、ファミリーマートでは抹茶フラッペが売り切れるほどの人気ぶりだった。

 

また、ここ数年、パンケーキ、ポップコーンなどスイーツブームの発火点となった表参道ではICE MONSTER という店に大行列が出来た。ICE MONSTERは台湾かき氷の店だ。

 

今夏は空前のかき氷ブームとなった。ICE MONSTERなど台湾かき氷が人気になっているだけでなく、天然氷をつかった昔から日本にあるかき氷の専門店もブームになっている。六本木ヒルズでの夏祭りでも、かき氷に特化したイベントスペースに長い行列が出来た。また、美味しいかき氷専門店が話題になれば、千駄木や十条など都心から少し離れていても、多くの人が訪れた。

 

”新しいビジネスチャンス”が生まれるヒント

 

このモノあまり、情報あまりの中、多くの消費者は興味のある製品や情報だけを入手しようとし、自分に関係ないモノや情報は無視する傾向にある。企業が一生懸命売ろうとしても、消費者は現段階のモノや情報に不満はない。また市場を見れば、一定以上の高性能のモノばかりで市場は飽和化している。常に成長を求められる企業とすれば、消費者ニーズが薄い中で、どうやってモノを売ったら良いか困っている面もあるのだ。

 

その中で、今回のように”暑さに堪えられない”という「消費者の顕在化している問題」はわかりやすい切り口になる。かき氷に限らず、この明確なニーズを把握すれば、自社でやる商品開発、サービス開発、新規事業開発などの方向性は明快になりやすく、必然的に結果もついてくるのだ。

 

ビジネスが成長する上では、製品やサービスの品質、営業の能力以上に、明確なニーズのある市場にいることが強い。成長市場にいれば、多少、品質が悪かったり、営業力が弱くても売れるケースが多いのだ。インバウンド、円安、規制緩和のように国全体が主導することによって生まれるニーズとともに、近年の天候も強いニーズを生み出す要因になっているのだ。今年のブーム「かき氷」は、仕掛けによって生まれたブームというよりは、起こるべくして起きたブームなのだ。

「進撃の巨人」4DXと「映画の未来」

先日、「進撃の巨人」を六本木ヒルズの4DXで鑑賞した。マーケティングの仕事をしていると、クリエイティブ視点でも、マーケティング視点でも、意識的にあらゆるエンタテインメントに接することが大事だと考えており、映画、ライブ、観劇などには訪れる機会を意識的に多くしている。

言うまでもなく「進撃の巨人」は今や日本を代表する人気アニメだ。ただ内容を見ると、人を食べてしまうグロテスクなシーンが出てくるような漫画、アニメであり、私が第1巻を読んでいた頃には、ここまで日本全体で受け入れられるとは想像できなかった。今や、セブンイレブン、セゾンなど大手広告主もキャンペーンに採用しているのだ。

 

■ 人気漫画の映画化の難しさ

 

原作人気に対して、映画の評価はあまり芳しくない。これは往々にしてあることで、原作の人気がかなり高くファンの思い入れが強い場合に特によく起きる。その点において、今回は2つほど評価のポイントがあったように思う。一つ目は役に対する俳優のイメージの違いだ。映画では、主役のエレンを三浦春馬、ミカサを水原希子が演じている。その他、石原さとみ、長谷川博巳など人気俳優も出演している。演技の巧拙以上に、原作キャラクターとのマッチングに関して物議を醸し出している。二つ目は「巨人」をどのように表現するのかという点だ。巨人だけ見れば、原作の方が映画よりも恐怖感を感じるような評価が多い。私も映画を見た限り、人を食べるグロテスクなシーンの表現では、気持ち悪さを感じさせる部分もあったが、こと巨人に関して言えば、どこかユーモラスな表情のものも多く、原作のような印象は薄かった。

 

原作漫画を考えずに映画を見れば、俳優の演技も巨人の表現も、それはそれで完成度も悪くない。役柄、配役、巨人の表現においても、原作とは異なる部分は確かにあるが、酷評される完成度ではない。ただ、それでも芳しくない評価がつけられるあたり、「進撃の巨人」に対するファンの思い入れの強さがわかるというものだ。

 

■ 4DXの可能性

 

私は映画を見て感じたのは、人気漫画・アニメを原作の映画化の難しさ以上に、4DXを使った映画の未来の可能性だ。

 

ゆったりした席が映画での振動シーンとともに揺れたり、水がかかるシーンでしぶきが噴出したり、爆発のシーンで場内が光ったり、嫌な臭いが想定されるシーンで変な香りが出される。確かに画期的ではあり、今までの映画とは異なる印象を受けた。

 

ただ、現時点では、撮影が完了した後に、4DXの技術が使える部分を後付けで見つけて制作したという印象だ。東京ディズニーランドの「スターツアーズ」やユニバーサル・スタジオ・ジャパンの「ハリーポッター」などアミューズメントパークのアトラクションと比べると「映像と設備の一体感」はまだ感じることができなかった。

 

4DX鑑賞料は一人3000円だ。大人一人の映画鑑賞料が1800円に対して2倍弱の金額だ。東京ディズニーランドユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどは5000円以上の高額だが、単独でのエンタテイメント施設の利用料として考えれば、3000円は決して安い金額ではない。今後、視聴者が3000円に見合う価値を感じ、4DXが人気になっていくには、さらなる努力が必要だろう。

 

今後は、4DX上映を前提に、テクノロジーの活用を意識した演出方法をも意識しながら撮影・制作していくことで、映画でもアトラクションでもない新たなエンタテイメントが生まれ、アミューズメントパークなどに行かなくても、街中で気軽に楽しめるようになるかもしれない。

 

さまざまな挑戦が感じられた映画「進撃の巨人」。今後のエンタテインメントのあり方を考える上で、興味深い一作だ。

なぜ、グランクラス、ななつ星が人気になっているのか?

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北陸新幹線グランクラスに初めて乗車した。6列各3席と合計18席しかないほどゆったりした車内。通常の指定席や自由席が1車両で100席以上であることと比べると、どれほど贅沢なのかがお分かりいただけよう。価格も指定席の2倍程度と高額だ。ただ「価格/席数」で考えれば、コストパフォーマンスは決して悪くはない。

 

グランクラスの雰囲気は、落ち着いた暗めの内装。ベージュとこげ茶のコントラストが上質感を醸し出す。席は飛行機国際線のビジネスクラスのように、シートがリクライニングでき、ゆったりとくつろぐことが可能だ。フットレストも上に上がり、フルフラットではないが、十分に足を伸ばして横になれる感覚だ。グランクラス専用のスリッパも用意されている。これだけ上質感がたっぷりの空間なので、くつろいで眠りについてしまう。

 

私が乗ったのは約1時間強だった。1時間強という時間であれば、あえてグランクラスに乗らずとも半額以下の指定席や自由席を選ぶという選択肢もある。乗り物を移動の手段ととらえれば、同じ距離を同じ時間で行くのに倍の金額を払うことに有用性を見出さない人もいるだろう。

 

ただ一方で電車を移動のための手段と割り切らず、移動する時の時間や空間を目一杯満喫しようという人も増えている。だからこそ、グランクラスのような上質な車両が人気になる。また、JR九州豪華クルーズトレイン「ななつ星」特急「A列車で行こう」など乗車そのものを楽しむ動きがムーブメントになっているのだろう。

 

日本人は長い間、豪華なもの、高いものを手にいれることがステータスとされてきた。今の20代以下の人たちには、その考えはあまりない。仕事でも出世を望まず、散財するより貯金をし、自分らしい生活を送りたい。そんな人たちが増えている。今後、このような人たちが年を重ねる中で、時間や空間そのものを楽しむようなビジネスがますます増えて行くことが予測できる。すでにその兆候はブルーボトルコーヒーなどにも見てとてる。このあたりに注目してニュースやトレンドを見ると、新たな発見が得られるかもしれない。