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「昼マック」中止の消費者反応をマクドナルドの経営者はどう感じているのか?

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2015年11月11日、日本マクドナルドホールディングス(以下、マクドナルド)の平成27年12月期第3四半期の連結決算状況が発表された。

 

全店売上高は、273,914(百万円)対前年比 -20.4%とまだまだ厳しい状況が続くものの、第2四半期の数字と比べると改善傾向が見て取れる。

 

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■ 1分間でわかるマクドナルド凋落の理由と現状

マクドナルドの品質面については、2014年夏の製造過程における品質安全問題発覚以前より疑問に思う人たちは一定数おり、ドキュメンタリー映画の題材にされてしまったこともある。マクドナルド側としては、品質面の安全性についてはことあるごとに主張するとともに、社会貢献活動などをアピールしたり、子供に人気のキャラクターを起用したキャンペーンを次々に展開することによって、メインターゲットであるファミリー層をはじめ、顧客の気持ちを離さないように活動していた。ただ、日本においてはマックカフェへと店舗が改装されるようになってから、ファミリー層にとっては良い店ではなくなっていった。

 

そこに出てきた品質安全問題。従来からモヤモヤしていた問題が顕在化してしまったことで、安全面をもっとも気にするファミリー層の気持ちは一気に離れていってしまった。2015年になっても異物混入問題が発生し、マクドナルドへの不信感は収まるどころか、さらに加速してしまった。来店者数、売上高などすべての数字が前年比二桁割れの状況が毎月のように続いた。ようやく改善の兆しが見えたのが2015年8月だ。前年割れは続くものの、久しぶりにマイナスは一桁台を記録し、9月、10月とようやく下げ止まり感が出て、底が見えてきたのだ。しかし、ここにたどり着くまでに、かなり深いところまで来てしまった。2010年の売上高約3238億円と2014年の売上高約2223億円を比べれば、約1000億円のマイナス、売上規模としては2/3程度に減少している。売上高の最高を記録した2008年約4064億円と比べると約半分になっているのだ。普通の企業であれば、存続することすら危うい状況だということがお分かりいただけるだろう。

 

■ 2015年春からのマクドナルドが行ってきたこと

2014年7月の使用期限切れ鶏肉問題、2015年2月の異物混入問題があった後、2015年春あたりから、カサノバCEOの動きが多くなった。ママたちから意見を聞いて商品開発などに役立てるプロジェクト「Mom's Eye Project」に参加したり、店頭スタッフのホスピタリティを改善しようとしていた。また、店頭においては一度廃止したカウンターメニューを復活させ、商品面においては限定商品の開発に力を入れるなどした。原田前CEO時代に加速させたFC化の推進によって、FC店は直営店の約2倍となった。一時期、利益はどんどん上がったが、FC店への締め付けは厳しく、FCオーナーは疲弊し、それに伴い店舗も疲弊していった。FCとの関係を改善しようと、2015年度はFC対策に年間で120億円強の費用を計上している。

 

■ 「昼マック」の登場

そもそもマクドナルドが日本人に支持された理由は、そこそこ安くて、そこそこ美味しくて、居心地が良く、安心して食べられたからだ。ところが、マックカフェで高級感と美味しさを追求するようになり、居心地があまり良くなくなり、安心感がなくなった。利益率や利益額は上昇したものの、それはFC化推進によって生み出されたものであり、その歪みはFCの悲鳴となり、現場の動きはさらに悪くなった。これだけのネガティブな要素が重なれば、売上・来店客数など、前年比二桁割れが続いても不思議ではない。今まで支持されてきた理由と反対のことばかりやってきたからだ。

 

それを、2015年春からもう一度取り戻そうと努力してきた。多少の努力で変わるものではないが、その方向性は間違っていない。FC店への配慮はもちろん、昼マックの導入もそうだ。この結果が2015年8月あたりから少しづつ出始めたのだ。

 

■ 「昼マック」の中止と「おてごろマック」の登場

2015年10月下旬、「昼マック」が終了し、その代わりに「おてごろマック」が始まった。昼に特化して安くする戦略をやめ、終日にわたって安く食べられる戦略に切り替えた。結果、昼のセット価格は数十円の値上げになったが、その他の時間帯においては値下げとなっている。

 

「おてごろマック」では、200円バーガーのメニューを充実させた。そしてハンバーガーに自らニックネームをつけた。エッグチーズバーガーをエグチ、バーベキューポークバーガーをバベポ、ハムレタスバーガーをハムタスとし、店頭だけでなくCMなどにおいても積極的に打ち出している。セット価格にしても500円からというメニュー構成だ。

 

余談になるが、広告の実務も多く経験している立場から言えば、メーカー自ら商品にニックネームをつけるということ自体、センスは感じられない。ニックネームとは、消費者が愛着を持ったり、楽しんだりして自発的につけるものだからだ。ただ、なんとかしようというマクドナルドの思いのようなものは、ここから伝わって来るものがある。

 

■ マクドナルドが勘違いしている消費者

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マクドナルドの経営陣が真剣に考えた方が良いのは、なぜ「昼マック」中止が消費者に叩かれたのかということである。例えば、牛丼が値上げしても、企業はここまで叩かれてはいない。マクドナルドはなぜ叩かれたのか。

 

今回のマクドナルドは単純な値上げではない。新しいメニューは一日を通して比較的安価に食べられるという点で消費者にもメリットがある。おそらく通常の企業であれば、消費者もメリット・デメリットを冷静に判断し、ある程度の評価もしただろう。しかし、マクドナルドの置かれている状況は完全に異なるのだ。消費者の信頼を裏切り続けた結果が今の状況になっている。その状況下で「昼マック」は登場し、消費者は少しだけマクドナルドに戻ろうとする兆しを見せ始めていたのだ。そこに対して、マクドナルドは「昼マック」をやめるという決断を下してしまった。マクドナルドは本気で消費者のメリットのになると考え、新しい販売方法を選択したのかもしれないが、またマクドナルドは消費者の期待を裏切り、値上げしたという気持ちになる消費者も少なくないのだ。

 

それより怖いのは、マクドナルドが以前ほどは叩かれなくなったことだ。こちらの方が問題の根が深い部分がある。マクドナルドに完全に期待せず、どうでもよくなった人が増えてしまったのだ。クレームを言うのは、野次馬だけではない。本当にマクドナルドのことを好きだったからこそ、熱い気持ちになってしまう人もいるだろう。しかし、叩かれなくなったのは無関心の人が増えているということでもあるのだ。

 

消費者の信頼はまだまだ戻らない。四半期や月次に出される数字以上に、昼マック中止の一連の消費者の反応をは、今のマクドナルドが置かれている状況をシビアに物語っているのだ。