マーケティングの現状と未来を語る

世の中のニュース、トレンド、ブームをマーケティング視点からわかりやすく解説します

ラグビーW杯、日本に熱狂をもたらした3つの法則

ラグビー史上はおろか、スポーツ史上最大の番狂わせと言う人まで出るほど世界中に衝撃をもたらしたラグビーW杯の日本vs南アフリカ戦の結果。多くの人が知っている通り、終了直前の逆転トライにより日本が34vs32で勝利した。一気に注目度が高まったラグビー。ここまでの熱狂を生まれた裏には、それだけの理由があったのだ。

 

■ 熱狂の法則1:「世界トップ」への挑戦

 

世界に挑み、互角に戦うことが出来た時、スポーツは盛り上がる。W杯で優勝候補にも挙げられていた南アフリカ(試合前:世界ランキング第3位)という国に勝利した意味は大きい。仮に数十年ぶりの勝利だとしても、相手が世界ランキング10位あたりの国であれば、ここまでの盛り上がりにはならない。優勝候補に挑み、勝利したからこそ、日本中はここまで盛り上がったと言える。

 

この法則は、ラグビーだけに当てはまる話ではない。野茂英雄さんがメジャーリーグに挑戦し、ノーヒットノーランを達成した時。サッカーで三浦知良選手が当時世界最高峰と呼ばれたサッカーリーグセリエAジェノバに移籍し、ゴールを決めた時。テニスの錦織圭選手が全米オープンで世界ナンバーワンのジョコビッチ選手を破り決勝進出を果たした時。それまでの日本人の常識が覆った瞬間、日本中は熱狂に包まれたのだ。

 

■ 熱狂の法則2:トライの裏にある「ストーリー」

 

南アフリカ戦、終了間際、最後のワンプレイで日本代表は逆転トライを決めた。多くの日本人はラグビーのルールをあまり詳しくは知らなかっただろう。この人たちは、歴史的勝利の裏にある、逆転トライの意味を後から知ることになった。

 

それは、最後のプレイには選択肢があったということだ。トライより安全なキックでのゴールを狙い同点を目指すという選択肢と、負けるリスクは高くなってもトライを狙って逆転を目指すという選択肢だ。世界中から勝てるわけがないと思われていたにも関わらず、日本は同点狙いではなく、あえて逆転のトライを狙い、達成した。人々は、このドラマが生まれたストーリーを後から理解し、熱狂はさらに増したのだ。

 

■ 熱狂の法則3:競技を代表する「スター」

 

あるスポーツが一気に盛り上がる時には、その競技を代表するスターの存在がある。また、大人が話題にし、子供が選手の真似をしたくなるような”わかりやすい特徴”をその選手が持っていることも多い。野茂英雄氏のトルネード投法三浦知良選手のドリブルとカズダンス錦織圭選手のエアケイ。ラグビーで言えば、五郎丸歩選手だろう。今回の試合でも、五郎丸選手は多くのPKを決めた。五郎丸選手はPKを蹴る際に拝むようなポーズをとる。そのポーズは特徴的だ。そして決めて欲しい時にきっちりと信頼に応える実力もある。特に五郎丸選手にはラグビーを代表するスターの資質が感じられる。多くの人がそれを感じるからこそ、大いに期待し、競技は盛り上がりを見せるのだ。

 

■ まとめ

 

多くの人が注目もせず、ルールも知らない中で、ラグビーがここまで大きな熱狂を日本にもたらした理由は

 

1. 世界トップへ挑戦し、勝利したこと

2.   逆転トライの裏に、感動的なストーリーがあったこと

3. スターの資質を秘めた選手がいること

 

この3つの法則があれば、人々は熱狂し、その競技は盛り上がる傾向にある。絶対に不可能だと思われることを達成し、そこには子供たちまで憧れるスター選手の存在がいる。そして、より深く知ろうとすると、実は勝利の裏にはさらに感動をもたらす物語がある。勝利しただけでも、スター選手が現れただけでも、ここまでの熱狂にはなりにくい。これら3つの法則が当てはまったからこそ、熱狂は起きているのだ。

 

■ 「日本ラグビー」の未来

 

本来、2019年に日本で開催されるラグビーW杯は、新国立競技場こけら落としで行われるはずだった。ところが、新国立競技場建設問題があり、それは夢となった。そんなネガティブな話を吹きとばす南アフリカ戦の勝利だった。今回のW杯の最終的な結果はまだ先の話になるが、結果がどうであろうと南アフリカに勝利したという大きなきっかけを掴んだことは日本ラグビー発展のためには大きな要素だ。

 

今後、五郎丸選手をはじめ、チームとしてだけでなく選手個人への注目度も高まるだろう。ここ数年、あるカテゴリーにブームが到来する時には、「◯◯ガール、◯◯女子」という女子ファンが人気を後押しするケースが多くあった。ラグビーに関してもさっそく、「ラグ女」「ラガール」と呼ばれる女性ファン層がメディアでも取り上げられるようになってきた。

 

また、南アフリカ戦後、赤と白のストライプの日本代表シャツを販売する店では完売状態のところも多い。サッカー日本代表戦では、多くの人が青い代表シャツを着て応援するシーンが当たり前になっている。

 

今後、ラグビーが盛り上がるためには、競技的には世界のトップと互角に戦っていくことが重要だ。勝ち負けを争うのがスポーツであるから、これは当然のことだ。しかしそれだけではない。マーケティング的にもやれることは大いにある。それは、ラグビーを見にいく人を増やすことだ。試合の勝ち負けに頼るだけでなく、ラグビー場そのもののエンタテイメント性を高めることだ。メジャーリーグやテニスの四大大会など海外のスポーツの視察をして感じるのは、日本のスポーツの大きな違いは競技レベルだけでなく、エンタテイメントとしての充実度だ。極端に言えば、競技のルールがわからない人でも楽めるのが海外のスポーツだ。ここ数年、日本のスポーツ界も努力はしているが、まだまだ及ばない部分も大きい。ラグビーに関しても同様で、ラグビー場に行くこと自体が楽しいという人を増やすためのエンタテイメント性を高めることも今後は重要になるだろう。