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ビジネス視点で考察する「ベッキーさんの謝罪会見」

2016年には入ってまだ2週間だが芸能界は話題に事欠かない。今は、SMAPの解散騒動が世間を賑わせている。その少し前は、人気バンド「ゲスの極み乙女。」のボーカル、川谷絵音さんと人気タレント、ベッキーさんの不倫疑惑騒動が世間を賑わせた。ベッキーさん本人は記者会見を開き、不倫疑惑を否定。ただ軽率な行動を謝罪した。謝罪会見後も、ソーシャルメディアやテレビなどで多くの人がコメントをしているがネガティブな意見はおさまらない。

 

今回はビジネスの視点からベッキーさんの謝罪会見について考察してみたい。

 

■ PRのプロの視点から見たベッキーさんの会見

 

PRにおける謝罪会見のポイントは次の3つだ。

 

「事実を明らかにすること」

「問題発覚後、すぐに謝罪すること」

「メッセージが身内向けにならないこと」

 

誤解がないように言うが、事実については真偽は当人同士しかわからない。ただ諸々の状況を踏まえ、多くの人が「事実は黒」と思っている。したがって、一つ目の「事実を明らかにすること」という点においては、多くの人は納得しなかったようだ。

 

二つ目の「問題発覚後、すぐに謝罪すること」という点については、すぐに会見を開き謝罪した点で問題はなかった。

 

ただ重要なことは人々の受け取り方だ。事実が明らかになっていないと人々が感じたため、ベッキーさんが謝罪会見を開いても、批判の声がやむことはなかったと言えるのだ。

 

三つ目の「メッセージが身内向けにならないこと」に関しても不十分と言えた。会見では視聴者やファンよりも関係者やスポンサーに向けた意図が強く感じられた。また問題発覚後の週末、生放送では何もなかったように振舞う言動をしつつ視聴者に直接のメッセージはなかった。ただその裏では出演者や関係者には謝罪挨拶をしていたという情報も出てしまった。

 

たしかにテレビ関係者、広告関係者への対応は重要だが、一般の人たちには、自分たちが軽視されているような印象を抱かせてしまった部分もある。

 

■ なぜ批判の矛先が変わっていったのか?

 

ベッキーさんの会見終了後も批判の声はおさまらない。ただ、時間とともに、批判の矛先は川谷さんへ向かっている。根本的な理由としては、川谷さんの方がベッキーさんよりも相対的に非があると人々が思ったことだ。そして騒動発覚後、ベッキーさんは謝罪会見を開いたにも関わらず、川谷さんは会見を開かず、ファックスでコメントを発表しただけということだ。つまり「問題発覚後、すぐに謝罪すること」も「事実を明らかにすること」も出来ていない。「メッセージが身内向けにならないこと」に関しては、そもそもメッセージ自体ができていない。この結果、批判はベッキーさんから川谷さんへと向かっていったのだ。

ただ2人とも「事実を明らかにすること」という点において、人々の理解・納得を得られないまま、テレビなどで活動を続けている状態である。たとえテレビなど業界関係者の中で許されたとしても、多くの視聴者は冷ややかになるだろう。問題が起きた当初lこそ批判している人たちも、自分たちの声が届かないとわかると、何も言わずに、静かに離れていくようになる。そして、その余波は彼ら2人に対してだけでなく、彼らを出演させているテレビ局へも及ぶ。テレビ局への批判も増加し、テレビ離れにもジリジリと影響を及ぼしていく。

 

■ 企業の謝罪会見の失敗例

 

芸能界だけでなく、企業でも問題が起きた時には、すぐに事実を公表し、謝罪会見を開くことがリスクマネジメントの鉄則である。

 

2014年夏に消費期限切れ鶏肉使用問題を起こしたマクドナルドも問題発覚後1週間経って、ようやくカサノバCEOが会見した。ただ、その会見は謝罪会見にはほど遠い衣装だった。問題は仕入れ企業の問題としたことで消費者は不信感を持った。消費者からすれば仕入れ企業がどこであろうとマクドナルドの問題だからだ。またマクドナルドの品質への自信をアピールしてしまったことも大きな反感を買う要素となった。その後のマクドナルドの凋落ぶりは言うまでもない。

 

2015年に起きた横浜の大型マンションの傾斜問題。元請けの三井住友建設の副社長は会見において、二次下請けの旭化成建材への不信感を訴えた。消費者からすれば、販売主であった三井不動産や元請けの三井住友建設にも非があると考えるのが普通である。この会見も失敗と言えるものだった。

 

■ まとめ

 

問題は起きないことがもっとも望ましい。しかし問題が起きてしまった場合に備えることは、年々重要になっている。問題への対応によって長年培ったブランドイメージが一瞬で落ちてしまう時代なのだ。

 

かつて企業のブランドイメージはブランド広告で作られることが多く、企業側でコントロールすることができた。しかし最近では、企業のブランドイメージは企業側だけではコントロールしきれないことも増えている。ソーシャルメディアの発達により、消費者自身が情報を発信する手段を手に入れたからだ。いくらブランドイメージをコントロールしようと統制したところで無理がある。問題発覚後の会見の不味さだけでなく、アルバイトが起こした一つの悪ふざけが企業を存続の危機に追いやることも起こりうる時代なのだ。

 

こうした状況だからこそ、日頃よりリスクに備える企業が増えている。問題が起きた時の対応マニュアル、インタビュー練習などがその一つだ。問題が消えることはないが、必要以上に炎上しないことを企業も考えているのだ。今回の問題は芸能界のことだが、この教訓はビジネスに携わる人にも活かせる部分が少なくないのだ。