マーケティングの現状と未来を語る

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マーケティング視点で選んだ「2015年の漢字」

日本漢字能力検定協会が実施する年末恒例行事「今年の漢字」。2015年を表す漢字には「安」が選ばれた。安倍政権によって安全保障関連法が成立されたこと、パリ同時多発テロ事件など世界的に安全というものへの関心が高まったこと、旭化成によるマンション傾斜問題があり住環境への不安が高まったこと、お笑い芸人のとにかく明るい安村さんの活躍があったことなどから受賞に至った。たしかに国内外を見渡せば「安」は2015年を表す漢字としてぴったりだ。

 

ではマーケティング的な観点ではどうだろうかと考えると、別の漢字が浮かんできた。それは「変」だ。「変」は2008年に「今年の漢字」にも選ばれているのだが、ことマーケティング的な観点でみれば、2015年を表す漢字としてもぴったりだ。その理由を5つに分けてご説明したい。

 

■ 理由1:東京オリンピックのエンブレム・メインスタジアムが「変」わった

 

2015年7月、東京オリンピックの公式ロゴが佐野研二郎氏のロゴに決定した。しかし、盗作疑惑が持ち上がり、騒ぎが大きくなり、結局ロゴ決定は白紙撤回となった。その後、審査のあり方そのものも問題視されるようになり、ロゴ決定のための審査委員会も「変」わった。

 

「変」わったのはロゴだけではない。東京オリンピックのメインスタジアムも、当初決定されたザハ氏の案から「変」わった。一度は決まったものの、建設費用が当初予算を大きく超えてしまっていること等が問題視され、最終的には白紙撤回になった。

 

ロゴ、メインスタジアムのデザイン、。1998年の長野オリンピック以来の日本開催となる2020年の東京オリンピック。歴史的なイベントであり、国家的プロジェクトであるにも関わらず、オリンピックを象徴するロゴとメインスタジアムという2つの重要な要素を「変」えざるをえなくなった。日本にとって、前代未聞の「変」更事態が起きた2015年だった。

 

■ 理由2:日本スポーツの歴史が「変」わった

 

2015年のスポーツ界の最大のニュースは、ラグビーW杯において南アフリカ戦での勝利を含む予選で3勝したことだ。これは世界中で大きな話題となった。海外のメディアでは、スポーツ史上で最大の番狂わせとまで言われるほど衝撃的な出来事だったのだ。この活躍により、それまでマイナーだったラグビー人気に一気に火がついた。五郎丸歩選手は、一躍ヒーローとなり、子供までが五郎丸ポーズを真似るようになった。2019年のラグビーW杯日本開催へ、大きな弾みがついたことは間違いない。ラグビーはもちろん、日本のスポーツ界の歴史が「変」わったのだ。

 

■ 理由3:爆買いで日本の流通・ホテルが「変」わった

 

外国人観光客の増加、いわゆるインバウンドの大きな伸びはとどまることを知らない。数年前まで、2020年までに訪日外国人観光客数2000万人達成を目標にしていた日本政府。しかし、予想以上の成長スピードに目標を3000万人へと変えた。多くの外国人観光客、特に中国人は、観光を楽しむだけでなくお金を惜しまず「爆買い」をする。銀座の中央通り、ラオックスがある場所を中心に観光バスの列がズラッと並ぶ。秋葉原でも同様の光景が見られる。バスに乗り込む人たちは高級ブランドや量販店の紙袋、ドラッグストアのビニール袋など、両手一杯に大きな荷物を抱えている。

 

この外国人観光客の増加にともない、日本の流通も変化を見せた。デパートなどは外国人観光客が来るシーズンの売り上げは良いが、それ以外のシーズンは芳しくないトレンドにある。そのため、より外国人観光客が買い物しやすい環境を整えるよう「変」わってきたのだ。コンシェルジュや免税カウンターの拡充はもちろん、館内アナウンスで中国語が流れるのも当たり前になった。また中国人スタッフの姿も増えた。デパートとほぼ同様の傾向を示しているのが家電量販店だ。外国人観光客頼みの部分はますます大きくなっている。

 

量販店において外国人観光客の購買も「変」わってきた。2014年までは炊飯器のような家電製品が、外国人観光客の購入商品の中心だったが、2015年は化粧品などが爆買いされるようになった。そのため家電量販店においても化粧品フロアが家電フロアよりも賑わうシーンが見られた。客単価が高く、しかも短時間で購入してくれる外国人観光客は量販店から見れば良いお客さんだ。デパート以上に、店員に中国人のスタッフが増え、POPなども中国語表記のものが増えた。

 

中国人に大人気となり、業績がV字回復を見せているラオックス。中国人による爆買いの流れにより、ラオックスは家電量販店から中国人客のための免税店へと業態をシフトさせてきている。この先、アパレルなどの販売も拡充していく予定である。

 

ホテルも外国人観光客によって活況を呈した。都心部のホテルは予約で埋まっていることが多くなり、出張のビジネスマンがホテルを予約しようとしても、直前では取れないという状態まで出ててきた。観光地に関しては、東京、大阪、札幌などの都心部や有名観光スポットだけでなく、どこに行っても外国人観光客の姿が増えた。その結果、英語や中国語を話せるガイドが増えたり、外国人向けのアトラクションを行って観光スポットを盛り上げる場所まで増えてきた。

 

日本の量販店、ホテルのあり方が、外国人観光客の激増により大きく「変」わってきたことを感じた2015年だった。

 

■ 理由4:日本企業に起きた「変」事

 

2015年は不透明な企業不祥事が目立った年でもあった。もっとも大きな問題は東芝の不適切会計だ。7年間に渡って、不適切会計が続いていたことが判明した。専門家だけでなく、世間からも、不適切会計ではなく粉飾だという声も上がった。東芝の不適切会計に関する第三者委員会の調査報告書に対してですら、検証が甘いと指摘されたように、世間から見たら、何か「変」な印象が拭いきれない問題であった。

 

問題は東芝だけではない。旭化成のマンション傾斜問題に関しても、なぜこのような事態が起きてしまったのかと「変」な印象を拭えない人も少なくない。旭化成国土交通省に出したデータによると、調査対象者の3割にあたる50名が杭打ちデータの改竄に関わるなど、組織的な問題と見られてもおかしくない状況がわかったのだ。

 

東芝にしても、旭化成(実際には旭化成建材)にしても、知名度のとても高い日本を代表する企業である。2015年は、それまでいい意味でも悪い意味でも固い・真面目だと考えられていた大企業の問題が相次ぎ、何かが「変」だと人々が感じるようなニュースが多くなった。

 

■ 理由5:「変」わった才能が時代を「変」える

 

2015年の文学界最大のトピックスは、お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹氏の芥川賞受賞だ。賛否はともかく、これは今の時代にを象徴するものだと言える。自分の才能を一つの場所だけでなく、さまざまな場所で発揮し、活躍する人が増えている。ここ数年でコカ・コーラから資生堂、ローソンからサントリーなど、経営能力というスキルによって、全く異なる業界へ転身した経営者が増えている。マーケティングの世界でも消費財メーカーからエンタテインメント業界へと転身し、手腕を発揮したマーケッターもいる。プロ野球の世界でもファイターズ大谷選手のように投手としても、打者としても活躍する人が出てきたり、ヤクルト山田選手、ホークス柳田選手のようにホームラン30本、打率3割、盗塁30という異なる力を一気に発揮する選手が1年に2人も出た。ニュースキャスターやお天気キャスターへのタレント起用も増えている。

 

今までの常識的な働き方から「変」わることで、結果を出す人が増えてきた。2016年は、マルチに活躍の場を広げる人たちが世の中に増えるだろう。ビジネスマンでは、一つの仕事だけでなく、複数の仕事を同時に手がけるような人も増えてくるだろう。芸人、作家、アスリート、ビジネスマン、映画監督など活躍の場を複数持つ人たちが、スポーツやエンタテイメントの世界でも増えるはずだ。いままでにない「変」わったやり方をした人たちが、世の中に「変」化をもたらす。2015年に見えたその兆しは、2016年以降、ますます加速していく事だろう。

 

エンブレム、国立競技場、ラグビーインバウンド、大企業の問題、又吉直樹氏。2015年を振り返ると、今までとは大きく「変」わった出来事や才能があった。マーケティングという視点で見れば、「変」という感じこそ2015年を象徴する漢字だったと私は感じている。