マーケティングの現状と未来を語る

世の中のニュース、トレンド、ブームをマーケティング視点からわかりやすく解説します

「人民元の切り下げ」は日本にどんな影響をもたらすのか?

中国人民銀行は8月11日から3日連続で、対ドル為替レートの「基準値」を引き下げた。11日に1.9%、12日に1.6%、13日に1.1%引き下げたことは大きなニュースとなった。その後の発表で、これ以上の切り下げはないことも発表され、本件は落ち着きを取り戻している。さまざまな憶測がされた「人民元の切り下げ」。今後また起きる可能性はゼロではないだろう。今一度「人民元の切り下げ」がもたらす日本への影響について簡単に述べたい。

 

■ 日本市場への中国の影響

 

円安によって輸出を主産業とする日本の大企業の業績が上がり、株価が上がり、日本の景気が上向き基調にになりつつある。ようやく最近になって、中小企業を含む市中でも「不景気だ」という声を聞く頻度が少なくなってきた。ただ消費という意味では決して日本経済全体の底上げがされている訳ではないだろう。デパートや家電量販店などの売り上げを支えているのは今や日本人ではなく外国人だ。特に中国人の爆買いは大きな要素である。

 

中国人が日本で爆買いするには、大きく3つの理由がある。一つ目は、円安と連動した為替の優位性。日本で買い物をする方が安く買えるというものだ。二つ目は、海外旅行してお金を使えるだけの富裕層が増加したこと。中国経済の成長スピードが落ちたと言っても、中国は成長を続けている。またそもそも日本の人口の10倍程度にもなるので、富裕層の絶対数が大きくなる。そして三つ目は、安心して正規品を購入できるということ。日本では当たり前のことだが偽造品、模造品を買わされる心配がないということは、中国人にとってはポイントになっている。

 

このような状況において、連日行われる「人民元の切り下げ」がどのように影響するのだろうか。「人民元の切り下げ」とは、人民元安を招くものだ。あまりに生き過ぎた人民元の切り下げは、日本に以下のような影響を及ぼしかねず、対岸の火事ではない。

 

■ 人民元切り下げが日本にもたらす影響

 

一つ目は、円安メリットによる爆買いの減少である。中国人観光客をメインターゲットに据えたラオックスの純利益が前期比で約79倍になるなど、言うまでもなく爆買いの影響は大きい。為替メリットが少なくなることによって、爆買いによる購買額の減少だけでなく、そもそも日本旅行自体が少なくなることも懸念される。

 

二つ目は、円安メリットによる日本企業の利益の減少である。円安メリットを活かし、製造業を主事業とする多く日本企業が、国内工場での生産回帰に動いている。人民元が切り下げられることで、中国があらためて製造輸出業の強化を打ち出してくると、日本の国内工場生産のメリットが薄くなることが懸念される。それは、日本企業の業績とも関連する。

 

すでに日本の大企業は好調な業績を背景に、海外企業のM&Aを仕掛けている。タイミング的には、中国が人民元切り下げになる以前のタイミングで、多くのM&A案件が動いていたことはプラスになった。企業の視点から経済を見れば、日本企業は引き続きグローバル化を促進していくべきであり、その中でM&Aなども積極的に進めるべき時期だろう。また観光の視点から経済を見れば、中国人の爆買いは爆買いとして、買い物に頼らない観光地の魅力作りと外国人観光客の受け入れ体制を整えるスピードを早める時期であろう。

 

日本にしても、中国にしても、政府の方針が経済を大きく左右する。当然ながら、マーケティングも、政治や経済などマクロな観点を見ずして語れない。その意味でも、今後も目が離せないニュースの一つだろう。