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マーケティング視点から見た”鰻商戦”、空前の盛り上がりの理由

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7月24日は土用丑の日である。本来、鰻の旬は冬である。ところが「鰻=夏」というイメージが日本人には定着している。遡れば、江戸時代。エレキテルで有名な平賀源内が夏に売れないという鰻屋の悩みを解決するために、夏の「土用丑の日」に鰻と食べるという流れを作ったのが始まりだ。暑い夏場だからこそ、栄養のある鰻を食べることで暑さを乗り切ろうというプロモーションは大成功し、200年以上経った今や完全に定着している。その土用丑の日が、今年は空前の盛り上がりを見せている。その理由について4つの要因から解説をしたい。

鰻商戦が盛り上がる4つの要因

1. 生産的要因:

2013年まで鰻の稚魚は不漁が続いていた。しかし2014年に入り、鰻の稚魚の不漁がおさまったのだ。これにより鰻価格の高騰に歯止めがかかっただけでなく、供給量を増やせる可能性が高まったのだ。また稚魚の卸売価格が値下がりしていることも大きな要因だ。

 

2. 消費者の心理的要因:

アベノミクスによる円安メリット受けた投資家やメーカーなど大企業に勤務する人は給料が上がっているので、鰻を食べる財力がある。ただ、テレビや新聞のニュースで報道されているほど日本全体の景気は回復していない。都内でそう感じるのだから地方に関してはなおさらだ。ただ人間、我慢ばかりしてはいられない。節約をしていたら、どこかで反動消費が来るのはよくあることだ。多くの消費者にとって、景気回復への期待感からだけでなく、節約の限界という意味でも、たまには贅沢なものを食べたいという気持ちが高まっているように感じる。

 

3.日程的要因:

今年は7月24日の土用丑の日に加え、8月5日に二の丑もある。これ自体はほぼ隔年起きる状況で珍しいことではない。今年が特別に盛り上がっているのは、稚魚豊漁というポジティブなニュースがあるため、短期間に二度の丑の日が来るということを活かすことが出来ると、鰻を販売するあらゆる飲食店、販売店が意気込んでいるのだ。(余談ではあるが、2014年の稚魚豊漁によって慢性的な鰻不足問題が解消されるわけではない。この点においては引き続き努力が必要である)。

 

4. 気候的要因:

ここ数年の日本の暑さは異常だ。日本各地で30度を超えることは当たり前で35度を超えることも珍しくはない。中には40度を超える地域さえある。暑いからこそ、栄養価の高い鰻を食べて夏を乗り切ろうというムードが生まれている。

 

鰻商戦に力を入れるコンビニ・牛丼チェーン

今年の鰻商戦は、鰻専門店を始めとする飲食店以外の業界の力が入れようが目立つ。特にコンビニと牛丼チェーン店の動きが活発化している。その動向をお伝えしたい。

 

<コンビニの動向>

 

まずコンビニの動向だ。各社とも店頭チラシやポスターによって、6月あたりから早々と鰻弁当の予約受付を開始した。コンビニコーヒー、お惣菜、お弁当、クラフトビール等のクオリティとバリエーションが増えていく中、消費者がコンビニ食材を購入し、自宅で楽しむナカショクは定着した。コンビニとしても、今年のチャンスを活かしたいのだ。コンビニ最大手のセブンイレブンを筆頭にポプラのような中小規模のコンビニチェーンに至るまで鰻商戦に力を入れている。

 

コンビニはあらゆる消費者をターゲットとしているので、国産鰻をメインにした高額な鰻重を提供する鰻屋や中国産をメインにし安価な鰻重を提供する牛丼チェーンとは異なり、国産と中国産の両方をラインナップとして用意している。基本的には予約販売制だ。

 

その中でも、特に注目すべきはローソンだ。土用丑の日に合わせ、鰻をすべて国産の鰻に変更した。その中でも鰻の産地として有名な愛知一色の鰻屋の「炭火手焼き蒲焼重(2980円)」を発売する。2980円と言えば、街の鰻専門店で、鰻丼を食べられる価格である。焼肉では叙々苑監修のものを出したり、材料にこだわったナチュラルローソンの展開など、コンビニ各社のなかで、食に対するこだわりと独自性を打ち出そうとするローソンらしい鰻商戦の取り組み方と言えるだろう。

 

<各社の主なメニュー比較> ※金額は税込

 

セブンイレブン 

九州産「うなぎ蒲焼重(1830円)」中国産「うなぎ蒲焼重(1130円)」

 

ローソン    

愛知一色の鰻屋の「炭火手焼き蒲焼重(2980円)

 

ファミリーマート  

鹿児島産「うな重 上(1880円)」 中国産「うな重(1180円)」

 

サークルKサンクス 

九州産鰻1尾「うなぎ蒲焼重(1980円)」※宮崎県の鰻屋「鰻楽」との共同開発

 

ポプラ        

鹿児島産「うなぎ蒲焼重(2380円)

 

<牛丼チェーン>

 

続いて牛丼チェーンの動向について。牛丼チェーン大手、すき家はテレビCMで牛すきと鰻の入った丼をアピールしている。またうな丼を19円値下げすることで消費者に割安感も与えようとしている。

 

もちろん吉野家など他の牛丼チェーン店も鰻を全面に打ち出している。吉野家は2014年もうな丼を発売していたが、今年はボリュームをアップしたうな重を発売している。その他、過去最高額の1650円のうな重3枚盛りを発売する力の入れようだ。また吉野家はうな丼の通年販売も打ち出している。競合店であるなか卯うな重(790円)に加えてひつまぶし風のうなまぶし(890円)を発売している。

 

牛丼チェーンがこれだけ鰻を打ち出すのは、牛丼に比べて客単価が高くなるためでもある。牛丼チェーン各社の鰻重は基本的には中国産で、鰻屋やコンビニの国産品よりは価格を抑えている。これはコンビニ殿マーケティング戦略の違いからくるものだ。牛丼てチェーン店の場合、お店に来てくれたお客さんに対して「たまには牛丼ではなく鰻はいかがですか」というような狙いが見えてくる。いつも500円程度で食べている人が、いきなり2000円の鰻を食べることは考えられない。ただ1000円前後であれば「たまには贅沢しても良いだろう」とプチ贅沢気分で食べてもらえる可能性が増すのだ。コンビニのような数量限定の予約注文型ではないため、牛丼チェーン店は、高価な在庫を抱えるリスクは背負いたくない。ただ客単価はあげたい。このあたりに牛丼チェーン店の戦略が見えてくる。

 

いずれにしても、かつてのような低価格帯商品争いを繰り返したくない牛丼チェーン店にとって、鰻は格好の商材なのだ。

 

<各社の主なメニュー比較> ※金額は税込

吉野家  

中国産「鰻重 三枚盛(1650円)」 ※一枚盛は 750円

 

すき家 

主に中国産「うな丼(780円)」「うな牛(880円)」

 

なか卯 

「うな重(780円)」「うなまぶし(880円)」

 

最後に

今年の鰻商戦の盛り上がりは多くの要素が重なっており、マーケティング的観点から言えば、盛り上がらないほうがおかしい状況にある。

 

空前の盛り上がりは、鰻丼、鰻重、ひつまぶしだけでなく、今まであまり知られていなかった鰻串の情報までテレビを始めとするメディアで放映されるようになった。焼き鳥、豚串などは知っていても、鰻串の存在を知らない人は少なくない。実は鰻には、かぶと、くりから、八幡巻、肝、背バラなどいろいろな種類の串が存在する。鰻は頭の先から尻尾までほとんどの部分を美味しく食べることが出来るのだ。常に新しい情報を伝えていきたいメディアとすれば、まだ多くの人に知られていない魅力ある情報には大きな価値があるのだ。

 

最後になるが、私も鰻は好きでよく鰻を食べに行く。良い鰻を食べると体が熱くなり、まさにパワーを頂いていると感じることも多いからだ。また、鰻にはビタミンAが豊富に含まれており、目の疲れにも良いと言われている。パソコンやスマホなど、かつてないほど目を酷使している現代人にマッチした栄養食と言って良い。ありがたく鰻をいただき、より良い仕事、より良い生活の糧にしていきたいものだ。

 

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<写真>銀座の鰻屋ときとう。本格フレンチや割烹を低価格で提供する俺のグループ系列の鰻屋。味も雰囲気も抜群であり、人気上昇中の鰻屋。