マーケティングの現状と未来を語る

世の中のニュース、トレンド、ブームをマーケティング視点からわかりやすく解説します

増税検討でピンチ?!チューハイ人気の未来はいかに?

ビジネスマンだけでなく、家庭においても「またビール類に増税があるらしい」ということが話題になっている。今回の記事では、まず最初に、ビールやチューハイの増税について何が検討されているのかということについて整理してみよう。

◼︎ 増税検討の内容

簡単に言えば、ビール、発泡酒、新ジャンル(第3のビール等)税額を一律55円程度(350ml相当)にしようということで政府が検討に入っているというものだ。下記の数字は小売価格と現在の税額だ。

 

ビール:小売価格 約220円(税額 77円)

発泡酒:小売価格 約165円(税額 47円)

新ジャンル:小売価格 約145円(税額 28円)

 

もし単純に税額分だけ増減するとなると、ビールは現在のよりも安くなり、発泡酒・新ジャンルは高くなる。以下のようなイメージだ。

 

ビール :小売価格 約198円

発泡酒:小売価格 約173円

新ジャンル:小売価格 約172円

 

上記に加えて、政府はチューハイに関しても酒税の引き上げをはかるという見通しが出てきた。現在、チューハイの小売価格 は約145円 (税額 28円)と新ジャンルと同レベルだ。税額が突出して安くさせることは市場健全化を妨げると述べている税関係者もいるようだが、本音を言えばできるだけ酒税を増やしたいということだろう。

 

もしビール類に加えてチューハイの増税も実現されれば、ビール、発泡酒、新ジャンル、チューハイの小売価格には大きな差はなくなる。現在、消費者が感じている第3のビールやチューハイの割安感はなくなってしまうということにもなりかねない。

◼︎ 増税後には新ジャンルの売上は減少、チューハイは微減と予想

酒税収入のピークは1998年の約2兆2000億円なのだが、2013年には約1兆3470億円とピーク時の約60%となっている。この背景にあるのは消費者のビール離れだ。このビール離れによる税収減からリカバリーを図ろうと、新ジャンルやチューハイなどビール以外を増税する方針を打ち出したのだ。

 

増税が実現した場合、チューハイ以上に新ジャンルの売上は減少するだろう。なぜなら、第3のビールが誕生し成長した背景には、ビールに近い味を安く飲みたいという消費者ニーズがあったからだ。新ジャンルの場合、消費者の購買行動における”価格”要素の重要性は大きい。

 

一方、チューハイは多少事情が異なる。チューハイ人気の秘訣は”価格”もあるがそれだけではない。ビール、発泡酒、新ジャンルはすべてビール味での争いだが、チューハイの場合、さまざまな味を楽しむことができるというポイントがある。値上げは家計にとって大きな数字ではあるものの、代替品のある新ジャンルと異なり、チューハイはオンリーワンに近い存在なため、増税の影響は少なくなるのだ。

◼︎ チューハイブームはなぜ起きたのか?

今のように空前のチューハイブームが起きている背景にあるのは、消費者の節約志向はもちろんだが、それとともに消費者の趣味嗜好の多様化が挙げられる。かつて居酒屋に行けば「とりあえずビール」と言って半ば強引に一杯目はビールになっていたが、今は最初からビールだけでなく、チューハイやソフトドリンクも注文する時代だ。今の40代以上から言わせれば、最初からビールが好きな人ばかりではなく、苦手と思いながらも飲んでいくうちにビールの苦みが好きになるということだろうが、今はそういう時代ではない。自分の好きなものを、自分のペースでいただくということがオンオフ問わず主流になってきているのだ。

◼︎ チューハイ、クラフトビール。ビール会社の経営方針の変更

チューハイ人気を受けて、ビール会社もチューハイに力を入れるようになった。ビール会社にとって、市場が縮小してもビールは最重要飲料の位置付けだ。しかし昨年くらいから、あえてビールとチューハイを比較させるようなCM(広告展開)も増えてきた。中にはビールを自虐的に扱うCMすらあるのだが、これはかつてでは考えられなかったことだ。今やビール会社にとってチューハイはかなり重要な商品群になったのだ。

 

ビール会社の経営方針の変化はもう一つある。それはクラフトビールの存在だ。コンビニのアルコール飲料ケースにおけるクラフトビールの割合は日に日に増している。また、2014年にはビール会社大手のキリンはクラフトビール大手のヤッホーブルーイングと提携するなど、大手ビール会社はクラフトビールの取り込みを加速させようとしている。

 

クラフトビール人気の背景も、チューハイ人気の背景と同じように、消費者の好みの多様化がある。消費者は、同じような味のものならば安いものを選ぶ一方、自分好みのものがあれば、多少価格が高くてもそちらを選ぶという選択もするのだ。それがクラフトビールであり、チューハイ人気を支える要因にある。

◼︎ チューハイの未来

ここ数年、ビール市場は縮小の一途を辿っている。その大きな理由は”消費者のビール離れ””若者のアルコール離れ””女性層の増加”もあるが、最大の理由は”節約意識の高まり”だろう。

 

バブル崩壊以降、ビジネスマンの給料はなかなか増えず、家計においても、お父さんのお小遣いにおいても節約しなければならない状況が増してきた。色々と切り詰める必要性がある中で、ビールも節約対象になっていったのだ。「ビールは贅沢品」というイメージが増す中で、ビール会社各社は、より安く、より美味しく、よりビールの味に近いものを開発しようと企業努力を重ね、発泡酒や新ジャンルの開発に至ったのだ。またそもそもビールを好まなくなった若者や女性のニーズをとらえ、さまざまなチューハイ飲料の開発も進めてきた。その結果、低迷するアルコール市場において、第3のビールやこれらの市場は大きく成長したのだ。

 

今回、増税が実施された場合、アルコール業界への影響は少なくない。全体的な売上にも影響することだろう。しかし、その中で言えばチューハイ業界への影響は比較的少ないだろう。なぜなら、チューハイは価格だけで消費者に選ばれたわけではなく、味を中心とした内容で選ばれている要素も強いからだ。そしてチューハイに関する消費者ニーズの掘り起こしにはまだまだ大きな可能性がある。味だけでなく”飲み方”や”飲むシチュエーション”の提案など、まだまだ余地は大きい。消費者としたら、メーカーには企業努力でコストを抑える期待をするだけでなく、これを機にさらに魅力的な商品開発を期待したいところだ。