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錦織圭のトップ10入りを作った「1つのきっかけ」

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全仏オープンが開幕した。錦織圭選手は3-0のストレート勝ちで順調に初戦を突破した。ご存知の方も多いと思うが、錦織選手は小学生の頃から才能あふれる選手であり、あの松岡修造も指導にあたっては技術的な指導をしてはいけないと思ったほどだ。

 

13歳の頃から、フロリダのIMGテニスアカデミーに留学した。IMGはシャラポワアガシなど数多くのグランドスラマーを輩出する世界屈指のアカデミーだ。日本のトップジュニアも数多く留学しているのだが、厳しい世界のため、そこでふるいにかけられ、一握りの人間だけがエリートコースに入ることが出来る。錦織選手はIMGでの争いに勝ち、エリートコースに入り、世界へと大きく羽ばたいていく。当時、それほど大きな実力差がなかったジュニアのライバルとは、ささいなきっかけだったり、ほんのわずかなこだわりの違いによって、後々大きな開きとなってしまう。錦織選手のようにトップ10に入ることはおろか、テニスをやめてしまう選手も少なくない。

 

技術、機会そしてメンタル。この3つの要素がかみ合った錦織選手はプロ転向後、ランキングをどんどん上げていく。それまで男子シングルス日本最高位は松岡修造さんの46位だったのだが、それを抜き、いよいよトップ10に迫れるかどうかというランキングまで上がっていった。ところが、そのトップ10の壁がなかなか崩せない。対戦にしてもジョコビッチフェデラーナダル、マレー、フェレールなどトップ10以内の選手と戦うときには、観ている私たちも心のどこかで難しいなあと感じていたと思うのだ。

 

◼︎ マイケル・チャンとの出会い

 

その壁を崩したのがマイケル・チャンコーチだ。17歳で全仏オープンを制覇し、世界最高ランクは第2位。体格はテニス界において決して優れているわけでなく、日本人と近い。錦織選手は、それまでコーチ経験のないマイケル・チャンに指導を仰ぐようにしたのは、こうした背景があったのだろう。「なぜ日本人と同じ体格でグランドスラムに勝てたのか?」「なぜ日本人と同じ体格なのに世界第2位まで行けたのか?」

 

マイケル・チャンをコーチに迎えた後、錦織選手は変わった。松岡修造さんでも手をつけなかった技術面にも踏み込み、肉体改造を含む厳しい練習メニューを課した。そして技術面以上にこだわったのがメンタル面だ。錦織選手にとって、フェデラーは憧れであったため、対戦するだけで喜んでいたのだが、それを一蹴した。その気持ちでいては勝つことは出来ないと判断し、ことあるごとにトップになるための言葉を投げかけた。

 

2014年、流行語にもなった「勝てない相手はもういない」という錦織選手の言葉は、チャンコーチのメンタルトレーニングの賜物と言えよう。その言葉を言う錦織選手の表情や態度は変わらないのだが、メンタル面での強さは明らかに変わった。もともと負けず嫌いで、小学生の頃でも、松岡修造さんと対戦し負けたことで悔し涙を流していたほどだ。そこに、まさに自分を信じる「自信」を身につけたことで、錦織選手はトップ10へと入っていった。

 

テニスだけではなく、他のスポーツでも、ビジネスでもメンタルというものは重要だ。能力は高くないのに自信がある人が結果として成功しているケースは枚挙にいとまがない。逆に能力は高いのに自分を過小評価するあまり、実力以下の能力しか出せなかったり、評価されない人も少なくない。

 

◼︎ 超一流選手のメンタルトレーニング

 

自分自身に強い気持ちを刷り込んでいくということメンタルトレーニングは重要だ。もう一つ重要なことがある。それは自分自身が戦う場所や舞台のイメージを明確にしておくことだ。錦織選手もチャンコーチからグランドスラムの舞台で戦っている状況を考えながら練習することを強く求められた。それは難しいボールを練習するだけでなく、簡単なボールでも同じことだったそうだ。すべての状況において、本番同様のメンタルで練習することで、本番と練習の境目はなくなり、いつでも本番モードの状態で試合に臨めるというものだ。

 

これは別業界でもよくある話だ。

 

例えば、競馬の武豊騎手の全盛期。武騎手が乗るだけで、その馬は人気になるほど武騎手の騎乗技術は圧倒的だった。技術の高さはもちろんだが、武騎手がやっていたことはG1レース(競馬の最高峰レース)であれ条件戦であれ、自分が騎乗する馬や対戦相手の競走を1レースにつき約50回程度見返していたということだ。頭の中でどのようなレースになるのかをシミュレーションし、現実のレース風景を描いて本番を迎えるということなのだ。おそらくレース当日、武騎手はスタートする前にすでにゴールした後のイメージまで出来ているので、自信に満ちて騎乗に臨めていたのだろう。

 

◼︎ 日本人よ、自信を持とう

 

錦織選手の初戦が終わった後のインタビューを見て、また階段をひとつ上ったと感じた。試合のスコアこそ3-0のストレート勝ちだったが、内容は決して良いものではなかった。ファーストサーブは入らない。ストロークも普段の錦織選手と比べて浅かったり、コースが甘かったりと精度は決して高くなかった。しかし、それでも自分をコントロールし勝利に繋げていったという試合だ。試合後のインタビューで「今日は良かった。この調子でいきたい」という淡々とインタビューに答える錦織選手を見て、彼のレベルはここまで上がったのかと感じた。初戦の勝利は前提であり、この後に続く過酷な試合へ続くウォームアップのようなものだと自然にとらえているのだ。もちろんそれは手を抜いているということではない。目の前の試合に勝つという視点に加え、優勝するまでの道のりを俯瞰で捉えた視点が加わったということなのだ。今までなかった錦織選手の凄みのようなものを感じた。

 

反省はとても大事なことだ。ただ日本人の中には、反省してスパッと前に向かって進めず、いつまでも後悔するタイプの人も多い。反省は未来への糧だが、後悔しても未来は変わらない。そして失敗しても、そこまでやってきたことは無駄になるわけではない。

 

またビジネスにおいても、海外に出ると、英語力のせいなのかとたんに自信を失い、自らのスキルの1/10も出せずにいる人がいる。英語力の向上も重要だが、それと同等以上に自分自身のセルフイメージを高く持つことも重要だ。

いろいろな困難が訪れる現在、スポーツだけでなくビジネスにおいても心の底からの自信を持つ努力をすることが日本人には重要なのだ。錦織選手の活躍はその重要性を私たちに教えてくれているのだ。