マーケティングの現状と未来を語る

世の中のニュース、トレンド、ブームをマーケティング視点からわかりやすく解説します

全仏開幕。錦織選手がもたらす経済効果の可能性

f:id:yasushiarai:20150523215202j:plain

いよいよテニスの全仏オープン世界ランキング第5位の錦織圭選手の活躍を楽しみにしている人も多いだろう。2015年1月に行われたバルセロナオープンで昨年に続き優勝した錦織選手。過去、バルセロナオープンを2連覇した選手は6人いるが、その全てが全仏オープン優勝という記録も持っている。その意味でも、錦織選手には日本だけでなく全世界から注目が集まっているのだ。

今回のブログでは、全仏オープン開幕にあたり、錦織選手がもたらす経済効果と将来への期待値について述べていきたい。

 

◼︎ 広がりを見せる錦織選手の経済的価値

 

錦織選手の活躍によって、スポンサー企業は10社を超えるまでになった。日清食品ユニクロアサヒビールアディダス、ウィルソン、ジャガータグ・ホイヤーなどだ。そして2015年に入り大型スポンサーの契約が出た。錦織選手のユニフォームにもロゴがついたリクシルとのスポンサー契約だ。

 

実は、錦織選手のスポンサードの歴史は3つのステージに分けられる。

 

まず第1ステージは錦織選手が使うテニスグッズ関係のスポンサードだ。当然ながら、錦織選手が絶対に必要なものであり、テニスファンならば注目するところだ。

 

第2ステージはグローバル関連ブランドのスポンサードだ。錦織選手が世界で戦えるようになった結果、世界で戦う錦織選手のイメージと重ね合わせる形でスポンサードが増加した。

 

そして今、第3ステージを迎えた。その始まりがリクシルの契約とも言えるだろう。これは錦織選手のメディア露出が極端に増えてきたことと関連する。今やグランドスラムでなくても錦織選手の出場する試合は1回戦からテレビのスポーツニュースでトップニュースの扱いになることも少なくなくなった。かつてグランドスラムでも日本人の出場する試合はトップニュースにならなかったことから考えれば、錦織選手の注目度はもはや従来のテニスファンだけにとどまらない。日本中の誰もが見たいスポーツ選手になり、メディアでの露出も増えた結果、通常の広告キャラクターとしての価値がさらに高まったのだ。リクシルのスポンサードが従来と異なるのはこうした理由からだ。

 

これから全仏、全英(ウィンブルドン)、全米と3本のグランドスラムが続く。錦織選手の活躍によってはテニス銘柄でも、グローバル銘柄でもない企業があらたにスポンサードする可能性は大いにある。その意味でも全仏での活躍には注目だ。

 

◼︎ 野球やサッカーとの経済効果の比較

 

錦織選手が日本にもたらす経済効果は大きいのだが、実はもどかしい面もある。

 

野球やサッカーと比較すると経済効果が大きくなりにくいのだ。

 

例えば、阪神が優勝する場合をご覧いただきたい。プロ野球の場合、レギュラーシーズンの試合数だけでも100試合を超える。そして球場やショップでは、グッズも多数販売されている。つまり生で観戦できる試合が多く、グッズの種類も販売数も多い。そして試合数に比例してテレビのスポーツニュースなどで放映される機会も多い。サッカーにしても野球ほどではないが試合数も、グッズ販売も多い。

 

比べてテニスの場合、日本で錦織選手のプレーを見ることができるのは年に数回しかない。そして野球やサッカーのようにチームスポーツではないのでグッズの種類もそれほど多くなく、販売数にも限界がある。すでに日本のスポーツ史上もっとも優れた選手の一人と言われるようになっても、野球やサッカーと比べると、試合を見に行ったり、グッズを買うという直接的な経済効果が出にくいのだ。それは国内だけでなく、海外で行われる試合も同様だ。

 

もちろんてテレビやメディアでの露出は多くなっている。そして、かつての野茂英雄氏、三浦知良氏のように、道を切り拓いたという心理的な意味で、日本人に与えた影響も大きい。ただ経済効果という観点だけ取れば、野球やサッカーより出にくいのは事実だ。

 

では、どうすれば、錦織選手がもたらす経済効果は増えるのだろうか。

 

◼︎ 錦織選手の経済効果を飛躍的に高める方法

 

一つ目は全仏オープンを筆頭にしたグランドスラムでの優勝だろう。まだ日本人が成し遂げていないグランドスラムの優勝は、今以上の経済効果をもたらす。スポンサードの増加やスポンサード商品の販売増以外にも、グランドスラムやそれ以外へのツアー旅行増の可能性もある。また、すでに増加しつつあるジュニアのテニス人口増、その親世代のテニス熱の復活にも繋がるだろう。親世代はエドバーグ、ベッカー、チャンなどテニスが面白かった時代をリアルタイムで観ているだけでなく、テニスサークルなどに入り実際にプレーを楽しんでいた世代だ。”親子(父子・母子)消費”という言葉がここ数年の消費キーワードであるように、テニスにも親子で一緒にプレーしたり、スクールに通うような気運が高まってもおかしくない。これにより過去10年程度で50万人程度減り約370万人ていどになったたテニス人口(年1回以上プレーした人の数)は上向き、2/3程度まで減ったテニスコートの数も増える期待が持てるようになる。

 

二つ目は錦織選手が出場するビッグトーナメントを日本で行うことだ。現在、錦織選手が日本で出場する試合は楽天オープンくらい。これにもラオニッチやワウリンカといったTOP10の選手も出場しているのだが、テニスが日本で爆発的に盛り上がるためにはBIG4(ジョコビッチフェデラーナダル、マレー)が揃って出場するようなレベルのトーナメント開催が欲しいところだ。このレベルのトーナメント開催が実現すれば、外国からも多くの人が観戦のために来日する。そして彼らはテニス観戦だけでなく、観光やショッピングも楽しんで帰る。そこでお金を落としたり、SNSや口コミで日本の良さを発信してもらえることで経済効果は高まっていく。

 

ビッグトーナメントの招致の具体的なものとして、最高かつ最良の可能性が一つある。それがATPツアーファイナルの日本誘致だ。昨年はロンドンで行い、錦織選手も準決勝まで進出した。以前、上海でも開催されたように、グランドスラムとは異なり、開催場所が絶対動かせないという試合ではない。もしATPツアーファイナルが日本で開催されれば、かつてないほどメディアはテニスを取り上げるだろう。まして錦織選手が活躍しようものなら、日本中がサッカーW杯に近いような盛り上がりを見せる可能性もある。

 

日清食品ユニクロなど錦織選手の既存スポンサーだけでなく、トヨタや味の素やソフトバンクなど日本を代表する企業がメインスポンサーになってくれれば、ATPツアーファイナルの日本開催は決して夢物語ではない。

 

※ 関連記事

 

「錦織圭と羽生結弦に見る『スーパースター』の条件とは?」