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「IKEAvsニトリ」なぜ銀座初出店はニトリだったのか?

ニトリがプランタン銀座に出店した。ニトリと言えば、言わずと知れた家具を低価格で製造販売する企業だ。つい先日まで日本経済新聞私の履歴書」でも似鳥昭雄社長の破天荒な成長物語が人気を呼んだ。地元北海道でドームテントの店舗を出店したら屋根が破れてしまったり、店内が暑すぎて困った話、夜な夜な飲み歩いていた時の話、社員に裏切られた話など、とにかく毎回の話が面白かった。

 

その一方、ただ面白いだけでなく、事業を成功させようと、チェーンストアの神様的存在である渥美俊一氏に師事したり、アメリカの家具店へ視察に行ったりという奮闘話も興味深かった。

 

低価格家具としてIKEAと比較されることも多いニトリ。今回は、なぜ銀座に初出店したのはIKEAではなくニトリだったのかという点について掘り下げてみたい。

 

■ IKEAとの出店戦略の違い

 

大きな違いはニトリIKEAは出店戦略が大きく異なるということだ。

 

IKEAが北欧系のデザイン家具に対して、ニトリはよりファミリー寄りの家具というイメージを持っている人も多い。マーケティング的にはもう一つ注目すべきポイントがある。それはIKEAニトリの立地の違いだ。

 

IKEAニトリよりも大きな店舗を持っている。そしてニトリと比べて隣接する商業施設が少ない。またレストランが併設されている。IKEAに行く消費者はIKEAに行くこと自体が大きな目的であり、そこでじっくりと時間を使って見て回る。

 

一方のニトリは台場ヴィーナスフォートに代表されるようにショッピングモールに入っていたり、書店やスーパーが近接していたりする場合が多い。そして店内にはレストランはない。つまり、ニトリの場合、ニトリそのものに来る消費者だけでなく、近隣の施設に来たついでにニトリに寄ってもらうということを意識した展開をしているのだ。

 

今回の銀座出店にしてもプランタン銀座に出店した。銀座近辺であれば、大塚家具の本社がある有明や再開発が進む豊洲近辺であれば広い土地があり大型店舗を構えることもできた。しかし、そうしなかったのはそもそもニトリの戦略がIKEAとは異なるからなのだ。

 

ただ、そのニトリはなぜ銀座に出店したのだろうか。その理由は主に3つにまとめることができる。

 

■ 理由1:顧客の変化

 

一つ目の理由は家具を購入するの顧客の変化だ。

 

ニトリプランタン銀座店の売り場面積は1500㎡、商品点数は3000点程度だ。これはニトリの従来店舗の約1/3程度と決して大きくはない。そして低価格中心の郊外店とは異なり、中価格帯の家具や雑貨をラインナップしている。つまり、今までのニトリとは異なる店舗だ。

 

ニトリとしては従来のメイン顧客である郊外のファミリー層だけでなく若年層をあらたに獲得したいという目的が見えてくる。なぜなら、少子化に加え、便利な都市部に住みたい人がますます増えてくるからだ。また、若者の車離れも進んでおり、わざわざ車で郊外まで家具を買いに行こうとする人はますます少なくなっている。人口減少化も加速する中で、あらたな顧客の獲得はニトリの将来を考えれば重要課題の一つだ。

 

■ 理由2:銀座という街の変化

 

二つ目の理由は銀座という街自体の変化だ。ここ数年で銀座は大きく様変わりした。もちろんブルガリ、ヴァンクリフ&アーペルズ、ティファニーなど高級宝飾店も中央通りにある。しかし、メイン通りである中央通りの一等地にもユニクロができた。建て替え中の松坂屋にはFOREVER21が入っていた。以前のような高級店ばかりではないのが今の銀座だ。

 

もう一つ忘れてはならないのが家電量販店ラオックスの存在だ。中央通りのラオックスは中国人観光客の人気スポットだ。中国人観光客の数は年々増加している。私も2015年の旧正月時に銀座を訪れたが、歩く人はほぼ全員中国人、聞こえる言語も中国語だけという今まで銀座で感じたことのない不思議な感覚を経験した。中央通りの三越から博品館にかけてはバスがずらりと路上駐車していた。

 

銀座が高級店ばかりの街であるということはもはや幻想と言っても良いだろう。

 

ニトリが出店したのは中央通りと平行に走る外堀通りにあるプランタン銀座内だ。プランタン銀座といえば、20年前くらいまでは銀座デパートの中でも、特に若い女性に高い人気を誇っていたデパートだった。そこにあるファッションブランド、カフェ、雑貨はどこかフランスの雰囲気を感じさせていた。バレンタイン特集などあれば三越松屋以上に注目されていた。しかし現在、店の雰囲気は大きく様変わりしてしまった。

 

今回、ニトリが出店したのは6F、その上の7Fにはユニクロ(女性向け)がある。プランタンのターゲットは今も若い女性である。だからこそ今の若い女性にも受け入れられているユニクロや一人暮らしの女性が求めやすいニトリがテナントとして入っているのだろう。

 

プランタン銀座もかつてとは異なり、ユニクロニトリの集客力に期待をするようになっている。中央通りのユニクロラオックス、そしてプランタン銀座を見れば、銀座という街が変化しているのがお分かりいただけるのではないだろうか。

 

 ■ 理由3:日本経済の変化

 

ニトリの生産は海外中心だ。アベノミクスの円安政策はニトリの経営にはマイナス面も大きい。なぜなら対ドルで1円円安になるだけで、ニトリの経常利益は15億円もなくなってしまうからだ。今後もアベノミクスによる円安政策が続くと考えれば、より利益を確保できる方法を考えるのが経営者だ。電気業界を始め国内生産回帰を試みるメーカーと同じように国内生産体制を整えるか、それともより利益を取れる商品を販売するか、大きく分けて選択肢は2つある。ニトリはその後者を取ったということだ。銀座店での中価格帯商品販売を成功させ、それを全国的に広げたいとニトリは考えている。従来とは異なる価格帯の商品を販売する上では、いきなり全国的に導入するよりも、あるエリアでテストマーケティング(試験販売)してから全国に展開を拡大する方がリスクは少ない。その意味で銀座店はベストマッチなのだ。

■ 総括

一見チャレンジングに見えるニトリの銀座進出。その裏をよく見れば、将来を見据えた戦略としては奇をてらっていない至極当然の戦略だということがわかる。IKEAニトリの経営戦略はまったく違う。ニトリの銀座進出とは打つべき手を、打つべきタイミングで、的確に打ったということなのだ。