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”現場””データ””発表”で見えてくるマクドナルドの光と影

 

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日本マクドナルドホールディングス株式会社(以下、マクドナルド)が毎月発行している月次セールスレポートの数字をご覧いただこう。

 

◼︎ 月次セールスレポート(2015年3月、4月)

 

月次セールスレポート(2015年3月)※数字は前年同期比

 

全店売上高    -29.5%

既存店売上高 -29.3%

客数             -23.5%

客単価              -7.5%

 

月次セールスレポート(2015年4月)

 

全店売上高    -21.8%

既存店売上高 -21.5%

客数             -15.4%

客単価              -7.2%

 

 

2015年異物混入問題発生後、全店売上高、既存店売上高、客数、客単価とも最悪の状況を続けてきたマクドナルド。まだ悪い状況には変わりないが、4月の数字は異物混入問題発生前の2014年12月の数字と近いレベルに戻っている。ようやく改善の兆しが見て数字に表れてきた。

 

◼︎ 改善傾向の兆しが見えた2015年3月の店頭

 

「数字は過去を表すもの。現場は今と未来を映すもの」。これは私のマーケティングの持論だ。したがってさまざまな業種のコンサルティングや記事を書く上で定点観察を重視している。データを見ても未来は見えない。だから現場の店舗や店員や客の様子を見る。そして一回の視察ではブレが出るので、同じ場所、同じ時間で定点観察を行っている。マクドナルドについてはマックカフェ以前から複数店舗で定点観察を行っている。そこから常に未来が見えて来るのだ。

 

◼︎ 現場に出てきたマクドナルドらしさ

 

2015年3月に入ってから、マクドナルドの現場の「気」は確実に変わってきていた。多くの店で、以前より挨拶が積極的になり、店舗が清潔になってきた。ここ数年、無愛想だったり、挨拶をしなかった店員が、笑顔で優しくなり、挨拶をするようになった。店員に”やる気”が感じられるようになってきたのだ。かつてゴミが落ちていたり、テーブルが汚れていても、放置されていた店舗でも清掃が徹底されるようになった。また、ある店舗では店員主催で子供向けにハンバーガーを作ろうという教室が開催されるようにもなった。そして、ある店舗では注文後数分間かかる時に、何分程度待つかというアナウンスと同時に、店員が自発的に水をくれるようになった。このように、かつて日本のファミリー層に絶大な支持を得ていたスマイル、フレンドリーなマクドナルドの息吹が本当に久しぶりに感じられるようになってきたのだ。

 

「魅力的なメニュー」や「価格」は重要だ。しかし、マクドナルドにとっては「マクドナルドらしさ(店員力)」つまり「現場」はもっと重要である。このことを経営陣がようやく心底理解し始めたのではないかと感じている。店員のサービス以外でも、トレー広告では「365日のスマイル」というキャッチコピーでアルバイト店員募集をするなど「現場」重視の姿勢が感じられる。

 

私が見る限り、2015年3月初旬に「現場」重視の姿勢が見えてきたことで、2015年4月以降の数字に改善の傾向が徐々に出てくるだろうと私は感じていた。そして2015年4月の月次レポートで、その傾向は見えてきた。新たな問題が起きなければ、5月、6月と数字はさらに改善傾向に向かうだろう。

 

◼︎ 安全面・品質面での大きなダメージ

 

しかし、現場にマクドナルドらしさが出てくればくるほど、見えてきたことがある。それは安全面・品質面で失った信頼のダメージがとてつもなく大きいということだ。マックカフェ化以降、下がっていた「現場力」には、ようやく数年ぶりに明るい光が見えてきた。しかし、それだけ現場力が上がってきても、2015年4月の数字はまだまだ低水準であり、決して楽観できる数字ではないということだ。

 

マクドナルドがファミリーに受け入れられていた時代の存在価値とは「安くて、そこそこ美味しくて、楽しい」ことだった。マクドナルドはここ1年くらい新商品メニューの強化などをしてきたが、それが消費者には届いているとは言い難い状況だ。魅力的な商品開発以上に重要なことは、お客さんにマクドナルドは楽しいところだと思ってもらえることだからだ。最近になって、この点に改善の兆しが見えたことで、マクドナルドの数字も改善傾向を示すようになったのだ。

 

◼︎ 総括

 

マクドナルドの業績はこれからも改善傾向に入るだろう。しかし以前のような水準に戻すことはとても難しい。なぜならマクドナルドのメイン顧客層であったファミリー層にとっては、「安くて、そこそこ美味しくて、楽しい」ということを評価する以前に、「安全・安心」が重要なことだからだ。

 

2014年から2015年にかけて「安全・安心」を揺るがす問題が起きた時、マクドナルドであれば消費者の想像を超える徹底的な対応をすぐに打ち出すべきだった。カサノバCEOがすぐに会見を開き、安全が確認できるまで営業停止をしたり、生産体制を完全国内生産・製造に切り替えるなどのこだわりを見せるべきだった。ところが、カサノバCEOが会見を開いたのは問題発生から数日後であり、内容は歯切れの悪いものだった。

 

昨日(5月11日)には「ママズ・アイ・プロジェクト」というものが発表された。このプロジェクトでは、インターネットを通じて募集した意見や質問に関して、カサノバCEOと母親が毎月意見交換会を開催。その後、母親が店舗などを視察し、ウェブサイト、ソーシャルメディア、店舗で結果を公開するというものだ。

 

マクドナルドの経営陣が現状を打開させたいという方向性は間違いではないが、上海福喜食品問題発生以来続いている対応の弱さはぬぐえない。今、経営陣が考えているよりも、もっと徹底的にやらなければ消費者の信頼回復などは望めないだろう。

 

この先、マクドナルドの業績は少しづつ改善はするだろうが、打つべき手を打つべき時に打たなかった失敗は響くだろう。

 

ちなみにマクドナルドの不振は日本だけのことではなく全世界的なものだ。アメリカでは現状を打開するために、お客さんがハンバーガーをアレンジできる注文方法を取り入れ始めている。ただ、日本では導入すべきではないだろう。なぜなら、一人一人のためにカスタマイズしたハンバーガーを提供することは、マクドナルドが消費者に提供してきた価値を大きく変えるものであり、ビジネスモデルの完全な見直しにも繋がるからだ。かける労力と時間の割に効果はあまり出ないだろう。

 

現場とデータから見えてきたものは、マクドナルドの将来展望を考える上での「光」と「影」だ。現場」の「気」は着実に改善方向に向かっている。しかし、「数字」はまだまだ決して良いものとは言えず、「経営施策」も十分とは言い難い。この状況を見ると「現場」と「経営」の意識の開きが見えてくる。それは、マクドナルドがかつてのような輝きを取り戻すことが、かなり難しい状況であることが改めて浮き彫りにしたとも言えるのだ。