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100通りのWebCM。広告業界の常識も打ち破った松岡修造伝説

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先日、興味深いプロモーションが公開された。松岡修造さんが出演するサントリー食品インターナショナルの炭酸飲料「C.C.Lemon」のプロモーションだ。驚くべきは、松岡修造さんが100通りのWebCMに挑戦していることだ。このWebサイトに行くと、ユーザーは100通りの中から自分に合う名前を選ぶことができる。「やす」や「しんちゃん」といったものから「先生」「新人」といったものまである。WebCMでは、まず名前が呼びかけられ、その後松岡さんが作った「できる、できる君ならできる。僕は本気だ~」と続く。そして持ち味である熱さ全開で励ましの言葉を熱く言ってくれるのだ。ダンスや歌のサビなど基本的なCMフォーマットは共通だが、名前や肩書きの呼びかけ部分だけでなく、励ましの内容部分も変化に富んでいるものだ。

 

◼︎ 100人分のニックネームを呼ぶCM。広告業界を揺るがす事態。

 

通常、CM撮影におけるタレントの拘束時間は長くても1日だ。多忙を極める人気タレントになれば2~3時間というケースもある。また深夜からスタートというケースもある。15秒、30秒のTVCMを撮影し、タレントや事務所、広告主のOKを得なければならないため、現場にいる広告会社のスタッフは気が抜けない状況が続くのが通常だ。

 

松岡修造さんも大変忙しい方だ。日本テニス協会の強化副本部長という仕事の他、キャスターやタレントとしての活動も多い。日本での仕事だけでなく海外での仕事もある。このように多忙を極める中で、100通りのWebCMを撮影するための撮影時間を確保することは決して簡単なことではない。

 

私は約20年に渡って広告に携わる仕事をしているが、そもそも100通りの出演をタレント側が許諾すること自体、信じられない状況なのだ。松岡修造さんという人は何事にも全力な人だとは知っていたが、この100通りのWebCMを見た時に、広告業界にとって衝撃的な事態が起こったと感じた。さらに驚くべきは作詞も松岡修造さんが担当しているということだ。まさに、それまででは考えられない奇跡のようなことが起きたのだ。

 

松岡修造さんが、広告主からも一般の人たちからもこれだけ高く支持されるようになったのはなぜだろうか。松岡修造人気を支える3つの要素をご説明しよう。

 

◼︎ 要素1:「本物」

 

一つ目は、松岡修造さんはただの熱いタレントではなく「本物」の要素を持っているということだ。松岡修造さんはタレントである以前に、日本のテニス界を切り拓いてきた実力者である。日本人選手がメジャーリーグに挑戦する道筋を切り拓いた野球界の野茂英雄氏。日本人選手がセリエAブンデスリーガプレミアリーグに挑戦する道筋を切り拓いたサッカー界のKINGカズ。テニス界においては松岡修造さんがその役割を担った。松岡修造さんがいなければ、錦織圭選手は今のようなポジションにいたかわからないとさえ思えるほど、松岡修造さんの存在は大きかった

 

阪急東宝グループ(現:阪急阪神東宝グループ)の創始者、小林一三氏を曽祖父に持ち、東宝名誉会長を父に持つ御曹司。曽祖父と父以外にも、祖父は東宝の社長、兄は東宝東和の社長、従叔父はサントリー社長など錚々たる顔ぶれが並ぶ。松岡修造さんも、名門慶応幼稚舎に入り、普通であればストレートに大学まで進学し、な不自由のない一生を送ることが出来た境遇にあった。しかし高校の時に、自らの意思でテニスの名門柳川高校へ転校する。さらにその後、より強くなりたいと高校を休学しアメリカへテニス留学し、その後ツアー参戦の道を選んだ。ツアー参戦中は、親からの援助もなく、自らの力で生活しながら道を切り拓き強くなっていった。また知り合いもいない中、練習パートナーも自力で探して練習した。結果、「ウィンブルドンベスト8、世界ランキング最高位46位」という当時の日本人選手とすれば驚異的な成績をプロとして残すまでになったのだ。グランドスラム世界ランキングの順位という点で見れば、錦織圭選手の方が松岡修造さんよりもはるか上にいる。しかし、それは比較すべきことではない。凄いのは松岡修造さんが自らの力で、日本のテニス界の意識とレベルを変えていったことなのだ。

 

こうした貴重な知識と経験は、ジュニア強化のためのプロジェクト「修造チャレンジ」にも活かされただろう。錦織圭選手はもちろん、伊藤竜馬選手や添田豪選手といった日本人選手が世界で戦うことが当たり前の時代を築いたのだ。

 

「本物」であるがゆえに、言動は私たちの心に届きやすいのだ。

 

◼︎ 要素2:「熱さ」

 

今の20~30代は、かつて錦織選手も参加したジュニアの育成プログラム「修造チャレンジ」や「炎の体育会TV」などで見る松岡修造さんで熱さを感じた人が多いだろう。またオフィシャルサイト(http://www.shuzo.co.jp/)では、”応援メッセージ”という映像コーナーがある。すでに2,3年前から、この映像の面白さや松岡修造さんの熱さについては、ネット上で話題になっていた。

 

一方、40歳以上の世代はベスト8に入ったウィンブルドンでのプレーだったり、足を痙攣させ、倒れながらも立ち上がり、自分を鼓舞しプレーする姿に松岡修造さんの熱さを感じた。1996年、伊達公子選手とグラフ選手の試合では、自分自身の試合でもないのに観客席で大きな日の丸を振りながら応援していた松岡修造(当時は選手)さんにも熱さを感じた人は多かったのではないだろうか。

 

これらの話とは別に都市伝説的に語られるのが、松岡さんと地球の気候の関係だ。松岡修造さんが海外に行くと日本が極寒になり、帰国すると酷暑になるという偶然が何度かあった。このC.C.LemonのWebCMがオンエアされると4月には珍しく東京などでは雪が降った。実はこの時期、松岡修造さんがぎっくり腰だったということがわかり、ネット上はさらに盛り上がりを見せたのだ。本来何の因果関係もないものを、関連があるかのように面白がられる。松岡修造さんがそれだけ熱いということであり、その「熱さ」が多くの人から好意的に受け入れられている証拠と言って良いだろう。

 

◼︎ 要素3:「本音」

 

3つ目の要素は「本音」だ。現在は世の中に情報が溢れかえっている。テレビ、新聞、雑誌などの他、インターネットの情報もある。メディアだけでなく、一人一人もソーシャルメディアなどで情報発信できる時代だ。そして、情報の質はさまざまな状況だ。マスメディアにおいても、インターネットにおいても、ソーシャルメディアにおいても、嘘や誇張がなく発信されている情報は何か消費者自身もわからなくなり始めている。

 

このような状況の中、本音で語り続ける松岡修造さん。時には面白おかしく、時には涙を流すほど熱くストレートに本音を発信する姿は、溢れかえる玉石混合の情報の中に生きる私たちの心に響いてくるのだ。

 

次に、広告業界の話を交えたい。

 

通常、CMを始めとする広告に起用されたタレントの中には、広告では企業や商品・サービスをPRするものの、日常では別の企業の商品・サービスを好んで使っているというケースもある。ところが松岡修造さんの場合、できる限りスポンサー商品を愛用している。おそらく、日本の広告契約キャラクターの中でもっとも契約広告主の商品をアピールする一人ではないだろうか。例えばスポーツウェアを着る時にはオンオフ問わずミズノ(アドバイザリースタッフ契約)を着ているし、スーツの時はコナカを着ている。

 

広告主とすれば、企業や製品を愛し、利用し、アピールし続けてくれる松岡修造さんのような存在は本当に嬉しい存在だ。また消費者側からしても、広告キャラクターがメッセージを企業に言わされているのではなく、本音で語っている姿には好感が持てるだけでなく、説得力もある。

 

「本音」だからこそ消費者からも広告主からも高い支持を得ることができているのだ。

 

松岡修造さんという唯一無二の存在。松岡修造さんが、この先、どんな常識を打ち破り、日本に元気をあたえてくれるのかがますます楽しみだ。

 

松岡修造さんが出演するサントリー食品インターナショナルの炭酸飲料「C.C.Lemon」のプロモーション