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大塚久美子社長のPR戦略の巧さは大塚家具に明るい未来をもたらすのか?

株主総会で父である創業者大塚勝久氏に勝利した大塚久美子社長。一連のゴタゴタ劇を反省するという名目で「お詫びセール」を4月18日から全国16店舗でスタートさせた。商品は最大50%引きという驚異的な割引率だ。新宿店では過去最高の入場者数を記録するなど、セールとしての結果は上々だ。

 

会員制をやめて、来店しやすい店作りを進める、そして中価格帯商品のラインナップをもっと強化するということを打ち出している大塚久美子社長。本当に成功するかどうかはセールが終わり、通常のビジネス状況にならないとわからない。ただ、この一連の報道の中で、よくわかったこともある。それは大塚久美子社長の巧みなPR戦略だ。

 

◼︎ お詫びセール報道のための周到な準備

 

親子ゲンカのような見え方によって著しくブランドイメージを損ねた大塚家具。汚名返上とばかり、お詫びセール初日に大塚久美子社長は新宿店でお出迎えの先頭に立ち、お客さんに花を渡していた。このシーンは多くのニュース番組で流れた。かなりの数の報道陣が新宿店に殺到していたことを考えると、大塚家具は、大塚久美子社長が店頭に立つことを事前に伝えていたのだろう。

 

新宿店の後、大塚久美子社長はその足で仙台店を訪れた。翌日には大阪と名古屋も訪れている。この時の様子もやはりメディアで流れた。仙台店を訪れ、お客さんに声を掛けたり、写真撮影に笑顔で答えていた。イメージ回復のためには絶好の映像が流れ続けたのだ。

 

極め付けは、夜の食事シーンだ。大塚久美子社長と社員数名が小ぎれいで質は良さそうだが、それほど高そうではない和食店のようなところで夜の9時に夕食を取るシーンが流れた。贅沢をしている雰囲気を出さない。夜遅くまで働いている。そして食事の場ではスタッフと家具について熱く語っていた。ちなみに移動の車の中の映像も流れていた。移動の車に報道陣が急に乗れるわけはない。あらかじめ許可していたメディアに密着させたと見るのが普通だろう。

 

専門家の目から見ても、大塚久美子社長のPRの巧さには感心した。不祥事や問題が起きた際、多くの社長は会見等で失敗をし、それがネットに飛び火してますます悪い結果をもたらすという悪循環に陥るケースが近年多い。しかし今回の大塚家具のケースは、ニュースではなく大塚家具のPR番組ではないかと思えるほど上手だったのだ。100点満点以上と言っても良いほど、PR的には優れていた。

 

◼︎ 商品より自分を広告・PRする戦術

 

新生大塚家具は広告やPRの進め方も変わってきそうだ。そう感じた理由のひとつが大塚久美子社長を全面に押し出してきた点だ。現在まで、大塚家具の広告は家具を主役にした広告がほとんどだ。大塚家具という企業名は知っていても、創業社長であった大塚勝久氏のことを知る消費者はほとんどいなかった。しかし、大塚久美子社長の考え方は少し異なるようだ。今回のセール品の中に935がつく価格の商品がいくつかあった。93,500円の高品質ベッドや935,000円の最高級ベッドなどだ。新生大塚家具は、大塚久美子社長にちなみ、935(くみこ)という価格設定をしたのだ。この価格設定を発案したのは大塚久美子社長ではないようだが、少なくとも知ってはいただろう。大塚久美子社長自身も、大塚家具が変わったイメージを出すために、自分が前面に出るべきだと感じているのだ。

 

大塚久美子社長は、自分の見え方も相当意識していただろう。株主総会まではやや感情的に見られた大塚勝久氏の言動に対して、大塚久美子社長は冷静で知的な印象に見られた。ただ、ややもすれば冷たい印象にも受け取られてしまう。現に、自分自身が信任された後、勝久氏を支持した役員の調査を行い、自宅待機にしている面もある。だからこそ、お詫びセールの時には、優しい印象を与える明るい白系のスーツを着て、笑顔でお客様を迎え、気さくに記念撮影に応じるなどして、明るくて親しみやすい印象もアピールしたのだ。お詫びセールでメディアにどう映るかについては相当入念に準備をしてきたことが推察される。

 

◼︎ 最後に

 

大塚久美子社長のPR戦略は大成功だ。ただ、これはPRとしての成功であり、経営の成功ではない。大塚久美子社長を支持した大株主にはファンドも入っている。したがって1日でも早く販売を増加させ、企業価値を高めることが最重要課題なのだ。PRは大成功し、新生大塚家具は考えうる最高のスタートを切った。この先、短期間で成果を出さなければならないプレッシャーの中、大塚久美子社長がどのような経営・マーケティング力を発揮するのか注目だ。