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レモンジーナ「品切れ」による販売中止はサントリー戦略だったのか?

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サントリー食品インターナショナル(以下、サントリーインター社)は果汁入り炭酸飲料「レモンジーナ」の販売を一時休止すると発表した。同社によると、2015年4月から12月までの販売計画100万ケースを、4月1日の発売からわずか2日で125万ケース出荷と年間目標を上回ってしまったとのことだ。 予想をはるかに超える販売量となり、安定供給ができないため、生産体制が整うまで、出荷を休止するというものだ。しかし発表とは異なり、4月2日の時点で私が都内のコンビニを何店舗か視察した中では、レジ前の棚や飲料棚に大量のレモンジーナが置かれている状況があった。一体、このニュースの裏はどうなっているのだろうか。マーケティング視点で迫ってみたい。

 

■ 「品切れ」発表で考えうる2つの可能性

 

年間販売計画を2日間で超えてしまったという発表が4月1日に発表された。まさにエイプリルフールのような事態。気になるのは、この「品切れ」は販売計画の見通しの甘さによるものなのか、それともわざと販売数量を絞り品切れさせた戦略によるものなのかという点だ。この点についてご説明していきたい。

 

■ オランジーナのケース

 

まずレモンジーナを分析する前に、2012年に発売されたオランジーナの例をご覧頂こう。名前が示す通り、レモンジーナの兄貴分にあたるような存在であり、 リチャード・ギアが出演しているCMでもおなじみだ。レモンジーナとは味は異なるが苦みを残すといったテーストやパッケージはほぼ一緒。ターゲットもほぼ一緒と言って良いだろう。発売は2012年3月27日。オランジーナの発売当初の年間計画数量は200万ケースだった。ところが1ヶ月後に年間計画を達成してしまったため、夏には年間販売計画を当初の4倍にあたる800万ケースに引き上げたのだ。当然ながら、当初の計画よりも生産工程も強化した。

 

ここでまず注目したいのは、レモンジーナの最初の年間販売計画がオランジーナの半分程度と少ないことだ。また最終的にオランジーナが年間販売数量を当初予定の4倍にしたことを踏まえるとレモンジーナの年間販売計画はオランジーナの1/8程度しかないことになる。

 

テレビCMや電車の車内広告など、レモンジーナの発売とともに広告にも力を入れている。仮にサントリーインター社にとってオランジーナがメインでレモンジーナがサブ的な扱いだったとしても、この数量差はあまりにも大きく、違和感がある。ここから推測出来るのは、サントリーインター社は、レモンジーナが品切れになっても許容しようとどこかで考えていたのではないかということだ。本当に精査して作った年間販売計画が100万ケースだとしたら計画とは呼べないほど甘い見込みだと感じるのは私だけではないだろう。

 

■ コンビニにおけるシビアな陳列スペース獲得争い

 

コンビニでは、飲料に限らず多くの品物が、短期間で陳列と撤去を繰り返している。つまり陳列スペース獲得競争はますます激化し、棚での生き残り競争もますます激化しているのだ。そして陳列期間もますます短期化傾向にある。ロングセラーの定番商品でさえも気が抜けない状態だ。このような背景があるため、新商品投入時でも最初から大きな販売計画を立てることは企業側にとってリスクが高まっていると言えるのだ。最初の投入時に在庫リスクを抱えるよりも、出来るだけ少ない数量にしておく方がメーカーにとっては安全なのだ。ただ一方で「品切れ」を起こすことはメーカーにとって許されない状況もある。したがってメーカーは品切れを起こさないが、不良在庫も抱えない数量を設定しようとするのは普通なのだ。

 

今回、それでも「品切れ」が起きた背景をマーケティング視点で迫りたい。

 

■ 「品切れ」と消費者心理

 

現在のようにモノや情報が溢れていていても、企業はモノを売らないと経営が成り立たなくなってしまう。しかし、消費者からすれば、モノも情報もいらないほど”おなか一杯”であり、どのモノも似たようなものに見えている。 したがって「限定」「特別」「品切れ」「品薄」など希少性を感じさせるワードがあると通常よりもモノが売れやすい傾向にが加速しているのだ。

 

「売りたい企業」と「あまり情報やモノを欲しない消費者」という構図の中でも、消費者は「限定」「特別感」「品切れ」といった状況には興味を持つ。その結果、一般的な情報やモノはいらないが、「品切れ」を起こしてしまっているモノは欲しいという消費者が増えている。そしてモノが「品切れ」していることで、その人気はさらに高まってしまう傾向にあるのだ。

 

■ まとめ

 

最近、あえて「品切れ」や「品薄」にすることで、より大きなPR効果を狙おうとする企業も増えている。しかし、仕込みのやり過ぎは大きな危険も伴う。なぜなら、品切れを演出し過ぎたマーケティングのやり方を消費者がNOと感じれば、企業への不信・不満の火種はまたたく間に大きくなり、炎上に繋がりかねないからだ。そうなれば、モノが売れないだけでなく、企業イメージ低下による企業業績全体の悪化にまで繋がることもある。

 

今回の真相は明らかにされないだろう。ただ自然発生的な品切れというよりもマーケティング戦略上の「品切れ」演出と思われる部分があることは否定できない。