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株主総会が終わっても光明が見えない大塚家具の未来

大塚家具の株主総会が終了した(2015年3月27日)。今回の株主総会の最大の争点は、創業者であり会長の父大塚勝久氏と代表取締役社長である娘大塚久美子氏のどちらを経営者として選ぶのかというものだった。結果として「自身の続投と勝久会長の退任を求める議案が議決権の61%を得て可決し、大塚久美子社長側が勝利した。また、株主総会後に行われた取締役会においても再任された。

 

■ お家騒動のイメージの悪さ

 

さっそく久美子社長は、今回の騒動をお詫びして「おわびセール」を行うことを打ち出した。悪化したブランドイメージを少しづつ回復させることが目的なのは言うまでもない。ただ、この「おわびセール」。どれだけ効果があるのか疑問に感じる部分が多い。

 

なぜなら大塚家具にとって、現在の優良顧客は会員制販売スタイルによって顧客となった人達が多いからだ。今回の騒動のイメージだけでなく、久美子社長が打ち出す「誰でも来店しやすい仕組みと中価格帯商品の充実」は、その人達にはマッチしない。つまり「おわびセール」をすることによって、ブランドイメージを回復することには繋がりにくいのだ。

 

■ 大塚家具の試練

 

株主総会での親子喧嘩のようなやり取りはさておき、久美子氏が進めようとする戦略の先に、大塚家具の明るい未来はあるのだろうか。私は以前より、勝久氏が進める会員制販売方式とは別に、久美子氏が進めようとする中価格帯や若者向け製品の充実は進めるべきだと考えていた。ただ、その場合には「大塚家具」という同じ看板ではなく、別ブランド・別店舗で展開することが望ましいとも考えていた。久美子氏が進めた「Edition Blue」(現在は閉店)などは、成果を出すために時間がかかるかもしれなかったが、マーケティング戦略上は適した手法だった。ただ大塚家具が全社的に変わってしまうことには危惧している部分が大きいのだ。

 

■ 久美子氏の戦略

 

現在のマーケティングにおいて、重要なことは”認知”を最大化することでも、”集客”を最大化することでもない。もっとも重要なことは”ホスピタリティ”であり”顧客との深い関係性の構築”なのだ。人口減少化が進む中、広告によって認知を獲得する効率も、集客のための効率も低下傾向にある。消費者は溢れかえる情報をシャットアウトしているからだ。逆に、消費者は信頼出来る情報をどうやって得られるかを考え、欲している面が強くなっている。また、ギスギスした社会の中で、人のあたたかさや親切心などが欲しいと思う傾向も強くなっている。

 

つまり効率よりも、ホスピタリティが重要であり、そこで受けたホスピタリティによって販売側と消費者側に深い関係性が出来ることが重要になっているのだ。そのような体験を受けた人達は、本音で友人や知人にお薦め情報として伝えていく。これがポジティブスパイラルになっていくのだ。

 

したがって、将来を考えれば会員制販売方式は間違った方法ではないのだ。ただ勝久氏のやり方に不足部分があるとすれば、若者層の取り込みが十分でなかったことであり、その前提となる製品ラインナップが十分ではなかったことだろう。

 

■ 大塚家具を待ち受ける茨の道

 

これから大塚家具を待ち受けるのは茨の道だ。ブランドイメージの回復はもちろんだが、もっともシビアな課題は短期的に利益を上げることだろう。今回、久美子社長再任の裏には大株主であるファンドの存在があった。普通に考えれば、彼らは短期的に企業価値を上げ、もっとも儲かるところでのExitを探すことになる。大塚家具としては新規顧客を早急に獲得し、売上・利益を向上させることが今この瞬間にも求められているのだ。ファンドが久美子社長を支持した裏には、久美子社長が新しい経営戦略を遂行することで、勝久氏よりも上がり幅が期待出来ると判断した点もある。これから大塚家具は、中価格帯製品のラインナップ充実と集客のための広告強化に取り組んでいくだろうが、残された時間は少なくない。

 

大塚家具の未来が茨の道になる理由はもう一つある。それはターゲティングの苦しさだ。近年の消費傾向を見ると、高額商品でも気に入ったものならば価格に関係なく購入する行動と、とにかく価格にこだわりながら、それなりに質の良い低価格品を購入する行動の二極化が進んでいる。中価格帯製品というのは、現在の消費トレンドにはあまりマッチしないの可能性がある。さらにIKEAニトリなど低価格帯製品を競合として見るならば、彼らのような薄利多売を基本とするビジネスモデルに勝てるだけのリソースが、今の大塚家具にはない。つまり、大塚家具がこれから進もうとしている先にあるのは、超激戦区なのだ。

 

お家騒動として世間を賑わせてしまった株主総会は終わったが、大塚家具の本当の修羅場はこれからなのだ。