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コンビニ合併。鈴木会長発言に見るセブンイレブンの強さの根源

セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長。今の日本の経営者の中で最高の経営者の一人に挙げる人も少なくない。2015年1月、私は雑誌「財界」の「財界賞」受賞パーティーにご招待頂き、お邪魔させて頂いた。そこには日本を代表する経営者たちがズラリと勢揃いしていた。キッコーマンの茂木会長、東芝の元会長である岡村顧問、ファストリテイリングの柳井CEO、ユーグレナの出雲社長など新旧の経営者揃いぶみの中、セブンアンドアイの鈴木敏文会長もいた。コンビニを日本になくてはならない存在にした鈴木会長。受賞の挨拶で、今までやってきたことを淡々と語る姿に、経営者としての凄みを感じさせられた記憶がある。

 

<ファミマとサークルKサンクスの統合>

 

その鈴木会長がセブン&アイ・ホールディングス入社式後の記者団インタビューで、ファミリーマートサークルKサンクスの経営統合交渉について、「単純に一緒になっても、あまり効果が見いだせないのではないか。今回の件には、ほとんど無関心だ」と発言した。

 

ファミマは2010年にampmと合併し、今回はサークルKサンクスを含むユニーグループ・ホールディングスと合併交渉に入った。 ファミリーマートの上田会長としては、合併によってコンビニ業界第二位となり、いずれセブンイレブンに迫り、追い抜くことを狙っている。 しかし、セブン&アイ・ホールディングス鈴木会長はまったく気にとめていないようだ。そして続けて、加盟店の意識が大事だと言い切った。これは名言だ。なぜなら、現場が充実して働ける環境にないと、いくら本社や本部が頑張ってもうまくいかないからだ。この事実がわかっている人がトップであるから、セブンイレブンが圧倒的なナンバーワンであり続けているのだ。なぜなら「現場」の力は、企業の業績を大きく左右するもっとも重要なマーケティング要素の一つだからだ。

 

マクドナルドの凋落>

 

昨今の日本マクドナルドの凋落の原因は、食品問題を筆頭とした安全面への不安が露呈したことにある。ただ、それ以前より、マクドナルドの現場力は弱くなっていたことも凋落の大きな原因だ。それを引き起こしたのが、本社経営方針の転換だ。直営店舗を減らして、出来るだけフランチャイジーを増やすことで利益率の改善を図ったのだ。その結果、確かに利益率は改善し、マクドナルドの業績は大きく上向いた。しかし、業績向上と平行して起きていたのは現場の疲弊だ。本社からの要求は厳しくなる一方で、現場が儲かりにくくなってしまたのだ。その結果、フランチャイジー経営者やスタッフの士気は下がった。そして、それは顧客に対するホスピタリティの低下にも繋がっていってしまった。かつて、マクドナルドは明るく楽しい場所だった。現場が楽しく働けない状況では、明るく楽しい雰囲気をお店で出すことは難しい。

 

<すきや、ワタミの苦境>

 

現場が楽しく働けないことで苦境に陥っているのはマクドナルドだけではない。牛丼チェーン大手のすき家、居酒屋「和民」などを経営するワタミフードサービスも同様だ。社会問題になったすきやのワンオペ、ワタミの過酷な労働環境。当然だが、現場が楽しく働けない状況だ。結局ご存知の通り、この2社とも業績不振の憂き目を見ることとなってしまった。

 

一方で現場が楽しく働ける環境を持った企業は好調だ。居酒屋の例を挙げれば、「塚田農場」を経営するAPカンパニーが好例だ。現場では店員が楽しそうに働いている。ただ楽しそうなだけではない。先輩が後輩に仕事についてきちんと教えるなど教育システムもしっかりしているので接客スキル・マナーともに優れているのだ。現場が楽しそうだから、店の雰囲気も良く、お客さんも来たくなるという好循環が生まれているのだ。

 

<重要なのは「現場」の力をいかに引き出すか>

 

セブンイレブンに話を戻して、最後にまとめたい。セブンイレブンが業界第一位でいるのは、セブンイレブンが常に挑戦し続け、コンビニ業界に新しい価値を加えてきたからだ。おにぎりやお惣菜やおでんの販売、24時間営業、PBブランドの充実、100円コーヒー。例を挙げればキリがないほどだ。そして、この挑戦の数々の裏にあるのは「現場」重視の姿勢だ。実際、コンビニ各店を見ていて感じることはセブンイレブンで働くスタッフのホスピタリティやスキルの高さだ。

 

セブンイレブンでとても親切な接客を受けたのは一度や二度ではない。先日もとても親切な対応を受けた。あるセブンイレブンに行った時のことだ。入店時は雨が降っていなかったのだが,買い物を終えて出る時には急な大雨が降っていた。私が入口付近で立ち尽くしていると、スタッフが「傘、貸しましょうか」と声をかけて来た。たまに行っていたので、私の顔も覚えてくれていたのだろう。売り物の傘はすでに売り切れ、バックヤードから「古い傘ですけれどもどうぞ」と言って貸してくれた。「お金払います」と伝えたが、売り物ではないものだったので丁重にお断りされたのだ。翌日、乾かした傘をセブンイレブンに帰しに行って、別の買い物をした。このセブンイレブン周辺には複数のコンビニが乱立しているのだが、この出来事以降、セブンイレブンに行く頻度は確実に多くなった。

 

「現場」の力こそ、重要であることを、経営者はもっと認識すべきなのだ。企業規模ではなく加盟店の意識が重要だと言い切った鈴木会長の凄さをあらためて感じた。鈴木会長の発言は、他社を貶める目的でも、セブンイレブンの強みを自慢する目的でもない。もともと日本が持っていた「現場」の強さを、もっと大事にすべきという日本全体への示唆なのではなかろうか。