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マクドナルドの「苦情受付アプリ」がもたらす影響

日本マクドナルドホールディングスは2015年2月の月次レポートを発表した。売上高は対前年でマイナス28.9%と2015年1月に記録したマイナス38.6%に次ぐ落ち幅となった。客数、客単価とも2015年1月の落ち幅よりは改善しているが、2015年に入ってからのマクドナルドの不振は2014年の比ではない。なかなか下げ止まりしない状況が続いている。

 

■ 実際の店舗でも感じる人の流れ

 

実際の店舗に行って感じるのは、やはり客数の少なさだ。場所によってはビジネスマンが昼食を買うために列を作ることはあるが、そうではない時間帯の人の少なさが以前よりも目立つ。また、この時間帯にいる人達は低価格の単品メニューであったり、コーヒーだけであったりと、客単価はあまり高そうでない人が多いと感じている。

 

マクドナルドとしてはハワイアンバーガーなど新しいメニューを投入することで、店舗の活性化を図り、集客を増加させたかったのだろう。ただ、セット価格が600円を超えてくると割高感は否めない。そうなると、マクドナルドと同価格帯か低めの価格帯の飲食店に流れてしまう人達が多くなる。一方でマクドナルドに来る人は、ハンバーガーとコーヒーを合わせて300円弱で済ませようという人の割合が高くなる。空いているからコーヒー一杯を頼んでPCなどで仕事をする人の割合も高くなる。こうして、売上高も客数も客単価もどんどん下がっている。

 

以前より何度も述べて来たが、子どものいる家庭では「食」に対してもっとも望むべきものは「安全性」である。「味」よりも、「話題性」よりも、「安全性」が優先される。 マクドナルドの安全性については、マクドナルドが不振になる前から不安視する人もいた。2014年7月にパンドラの箱が開いてしまう。2014年7月に起きた上海福喜食品問題により、不安が現実の形となり、さらに不安が増大したのだ。その後、異物混入問題も続いた。いくら「妖怪ウォッチ」が人気でプロモーションを大々的にかけても、客がもっとも重要視する「安全性」に不安があっては客数は伸びない。ビジネスマンを始めとした大人たちはコスト面からマクドナルド離れをおこし、ファミリーは安全面からマクドナルド離れをおこしてしまった。こうした状況の中、スタッフのホスピタリティも低下している。この裏には直営店を減らし、フランチャイズ化による効率化を目指したことの弊害も否定出来ない。ただ、それはお客様には関係のない話だ。

 

■ 苦情受付アプリの登場

 

マクドナルドが開発したのは苦情受付アプリだ。企業の取り組みとしては新しい。今まではお客様相談窓口のような電話受付、メールでの受付、Twitterなどソーシャルメディアを活用した対応など、企業が顧客の苦情を受けつける方法はいくつかあった。ただ、それらは積極的に苦情を受けるというよりは、出来れば受付けたくない苦情を受ける窓口が企業にとって不可欠だというリスクヘッジ的なものだ。しかしこの苦情受付アプリはそうではない。積極的に顧客の苦情を聞くという姿勢の現れだ。ただ、このアプリがマクドナルドにもたらすものは、プラスよりもマイナスだろう。

 

■ 懸念点1:ニーズのはき違え

 

苦情受付アプリを作れば、顧客が苦情を言ってくれると考えたのだろうか。もしそうであれば、そこから間違いだ。今の消費者には、飲食店の選択肢が山のようにある。もし気に入らない店だったら、次回以降行かなくなるだけなのだ。したがって安全面、価格面、ホスピタリティ面に不満を感じることがあっても、多くの人は苦情受付アプリを使うことなくマクドナルドをスルーするだけなのだ。

残念ながら、カサノバCEOを始めとする経営トップの記者会見に不快感を抱いている消費者も少なくない。このような状況で、苦情受付アプリをリリースされても「その前に自分たちでやることがあるのでは?」と言われてしまっても仕方ないだろう。

 

マクドナルドは、消費者ニーズを履き違え、マーケティング手法を誤っているのだ。

 

■ 懸念点2:苦情処理の増加

 

多くの消費者が苦情受付アプリをスルーしていく中、一部の消費者は苦情を言うだろう。苦情処理とは心身ともにきつい仕事だ。そして、苦情処理のスピード、苦情処理の対応一つが消費者からさらなる反感を買い、さらなる苦情に発展する可能性もあるのだ。

 

マクドナルドが今やるべきことの一つに店舗スタッフのホスピタリティ向上が挙げられる。お客さんとフェイストゥーフェイスで向き合う販売の現場に改善点があるのに、苦情受付という対応の難しい領域を広げるべきではない。なぜなら、ホスピタリティも、スキルも、回答方法の共有も、その一つ一つがとても重要であり、より難しいものだからだ。しかも店頭であれば顔を見ながら出来るので、本当に店側に非のあるケースでなければ顧客から罵詈雑言や誹謗中傷を言われることは少ない。ところが電話やネットでは、顔も見えない、個人も特定出来ないというケースも少なくないので、酷い状況になる可能性が高いのだ。また、そこでのことをソーシャルメディア上に一方的に拡散されることもあり、それを面白がって拡散する人も出てくることで、炎上するということもあるだろう。

 

さまざまな面において、この苦情受付アプリはマクドナルドにとってプラスの要素ではなく、マイナスの要素を秘めていることがわかって頂けるのではないだろうか。