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松井秀喜のヤンキースGM特別顧問就任は新時代の幕開けサイン

2015年3月11日(日本時間)、メジャーリーグの名門、ニューヨークヤンキース松井秀喜氏をゼネラルマネージャー(GM)特別顧問に任命したと発表した。松井氏は2003年から2009年まで7年間に渡りヤンキースでプレーした経験を持つ。2009年のワールドシリーズではMVPを獲得する活躍をし、ヤンキースの優勝に貢献した。

 

今は、多くの日本人プロ野球選手がメジャーリーグへ移籍することが当たり前になったが、メジャー球団のフロント入りする日本人選手は初めてのことだ。実は、このニュースはとても大きな意味を持つ。その意味について解説したい。

 

■ 先駆者、野茂英雄氏の功績

 

現在のようなメジャー移籍のトレンドが始まったのは、野茂英雄氏のメジャー移籍からだろう。当時、近鉄バッファローズに所属し、日本の最高レベルでプレーしていた野茂氏が絶頂期にメジャー挑戦を表明したことはセンセーショナルな出来事だった。ダイナミックなトルネード投法から繰り出されるストレート、フォークボールは観るものを魅了し続けた。オールスターゲームでの快投、絶頂期にあった清原和博氏とのストレートだけの真っ向勝負。ただ上手いとか強いではなく、野茂氏はまさにスーパースターであった。メジャーリーグに移籍後も、1試合17奪三振や2度のノーヒットノーランなどの驚異的な活躍で日本だけでなくアメリカも沸かせた。その後、多くの日本人選手がメジャーでの活躍を目指して、渡米するようになったのだ。

 

■ なぜメジャーリーグは日本人選手を獲得し始めたのか

 

その後、多くの日本人選手がメジャーへ移籍出来たことには理由がある。もちろん実力面において一定以上のものがなければ移籍は出来ない。なぜならメジャーリーグは自他ともに認める世界最高峰のプロ野球リーグだからだ。超一流選手の多くがプレーしたい場所だからだ。ただ、日本人選手が移籍し始めた理由は、もう一つある。それは「お金」だ。

 

ここで言う「お金」とは選手の年棒のことではない。日本人選手がメジャーへ移籍することによって動くお金のことだ。それは、日本人選手を観戦しにくる日本人観光客の増加による観客数増加やグッズ販売の増加もある。その中でもっとも重要なことは広告スポンサーの増加だ。スタジアムへの壁面広告などが増加することによって球団にはお金が入る。またスタジアムだけでなくスタジアム周辺の広告にも影響が出ることがある。テレビの中継なども、実はスタジアムの壁面広告とは別の広告に差し替えることなどもあるため、日本企業の出稿がある。このように、他国からのアメリカに来る選手以上に、日本人選手の移籍は球団やメジャーリーグにとって歓迎すべきことだったのだ。この状況が、日本人選手を獲得しようという球団の意向を高めた面もあるのだ。

 

■ イチロー選手の活躍

 

メジャー移籍する日本人選手が増えたことやイチロー選手のように、常にメジャーリーグの第一線で活躍し続ける実力の選手が増えたことによって、メジャー球団の日本への見方は変わった。もちろん、イチロー選手やダルビッシュ有選手や田中将大選手のメジャー移籍によって広告スポンサーや日本人観客の増加などはある。ただ、以前よりもはるかに多い日本人選手がメジャー移籍をする中で、広告スポンサー獲得や日本人観客増はかつてほどは期待しなくなった。その結果、メジャー球団は日本人選手の実力そのものだけで評価するようになってきたのだ。メジャー移籍をした日本人選手の中には、まったく活躍できないまま、ひっそりと日本に帰ってくる選手も増えた。これも、メジャー球団の日本人選手の獲得志向が変化した現れの一つと言えるだろう。

 

■ 松井秀喜氏のGM特別顧問就任の大きな意味

 

日本人初のメジャー球団フロント入りを果たした松井氏。この意味は本当に大きい。前に述べてきたように、日本人選手が期待されてきたものは「実力+お金」だったのだが、松井氏のフロント入りは、かつてからメジャーリーグ・球団が日本人選手に期待してきた「お金」の部分とはまったく関係がないからだ。ヤンキースは純粋に松井氏の実績を評価し、フロント入りをさせたのだ。世界でもっとも人気のある、ブランド力の高い、伝統を重んじるプロ野球球団であるヤンキース。松井氏はGM特別顧問としてキャッシュマンGMや編成部副社長の補佐だけでなく、マイナー球団の視察や打撃指導も行うという。まさに裏方の役割、つまり野球の実力そのものによる新しい仕事の獲得なのだ。

 

野茂氏が築いた時代、イチロー選手が築いた時代、松井氏が築き、これから築き上げる新しい時代。メジャーリーグにおける日本人選手の存在価値は年々高まっている。松井氏のフロント入りは、その意味でもまったく新しい時代の幕開けと言えるのだ。