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日本マクドナル株売却「誰が未来を作るのか?」

日本経済新聞によれば、米マクドナルド本社が日本マクドナルドホールディングス(以下、日本マクドナルド)の株売却の打診を始めた。米マクドナルドは日本マクドナルドの株式の約50%を持つ筆頭株主である。日本マクドナルドの株式の最大33%まで売価する可能性があると言う。

 

■ 痺れを切らした米マクドナルド

 

日本マクドナルド売却というニュースは驚きを持って受け取られているが、実は以前から想定されていたことである。現在、日本マクドナルドの売り上げはピーク時と比べると約30%減の状況である。最初のきっかけは高単価化を狙ったマックカフェの推進や利益追求を狙ったFC戦略によってファミリー層が離れたり、スタッフの士気が下がったり、店舗の雰囲気が悪くなったりしたことによる。その後、2014年7月に発覚した期限切れ鶏肉使用という安全問題が起き、2015年1月にメニューへの異物混入問題が起きたことにより業績は悪化の一途を辿った。

 

2013年、日本マクドナルドのCEOがサラ・カサノバ氏になることで、米本社としては意向を伝えやすい状況になった(日本マクドナルドホールディングスCEO就任は2014年)。しかし2014年夏の安全問題における一連のプレス対応の大失敗をはじめ、カサノバCEOが大きな成果を残すことはいまだない状況が続いている。

 

2015年12月期の収支は約380億円の赤字見込であり、数字面においては業績回復の糸口も見えていない。今回の日本マクドナルド株売却は、日本におけるマクドナルドの将来性に一つの見切りをつけたということなのだ。

 

■ 米マクドナルドの苦境

 

しかし、日本マクドナルド株売却は、日本におけるマクドナルド事業の停滞だけが理由ではないだろう。米マクドナルド本社も決して良い状況ではない。世界的な健康志向の高まり、特に米国における健康志向の高まりは、客のマクドナルド離れを招いている。

 

2015年3月には業績不振によりCEOが交代した。その後、世界各国の市場の格付けをし、4つのセグメントに分けた。米国市場、フランスやオーストラリアなど業績を牽引する市場、中国、ロシアなど成長が期待できる市場、日本、中東、中南米など大きな成長も収益も期待しづらい基礎的市場の4つだ。

 

また、2018年末までに世界全店のうち約10%にあたる約3500店舗を直営店から外し、FCなどに転換する方針も打ち出していた。

 

米本社から見れば、日本の位置付けは大変厳しいものになっていた。だからこそ、日本マクドナルドとしては収益性の改善を急ぐ必要があったのだ。それが現在ドラスティックに進められている不採算店舗を中心とした大量閉店に繋がっているのだ。

 

日本マクドナルドの業績改善は見込めない。ただ、日本だけでなく米マクドナルドも業績改善が見込めないから、今回の判断に至っているのだ。

 

■ 株売却の後のマクドナルドはどうなるのか?

 

今回の日本マクドナルド株売却は、カサノバCEOが就任したあたりから想定されたシナリオの一つだったと考えられる。

 

さて、日本マクドナルドの未来を占うのは「誰が株を買うのか」ということだ。これによって日本マクドナルドの未来が大きく変わってくる。

 

経営的なことを言えば、2014年末時点で日本マクドナルドに約800億円の内部留保はあるので、業績は悪くても今すぐなくなるといったことはないだろう。しかし現時点でなかなか好材料は見えてこない。

 

マクドナルドのメイン顧客層であるファミリーが戻って来る兆しは見えない。好立地にあった店舗は次々に閉鎖されている。牛丼チェーン、ファミレス、コンビニ弁当、立ち食いそばなど、低価格で食べられる競合は多く、競争は激化している。FC加盟店からは本部による利益至上主義に基づくFCへのやり方に対する悲鳴の声も上がっている。これからFC中心の展開を図りたい米本社の意向に対して、既存FC店舗がどこまで協力できるか不透明な部分もある。既存店売上についても改善の兆しは見えていない。

 

私が唯一、改善の兆しを感じていたのは「現場」が変わってきたことだ。都内のマクドナルドの数店舗を定期的に観測している中で、店頭における改善の兆しは少しづつ見え始めてきた。オペレーションは改善され、提供のスピードは上がった。オペレーションの改善とともに、提供されるハンバーガーの作り方が丁寧になっているところもあった。店内の清掃状況も以前よりは改善した。また店舗ごとにイベントを開催するなど、お客さんとのコミュニケーションを増やそうともしていた。「現場」の空気は少しづつ改善に向かっていたのだ。

 

しかし、これが数字に現れ、本格的に業績改善に繋がるにはまだ時間がかかる。多くのファンドは短期間で結果を求める傾向が強い。短期的な結果(リターン)を求めるファンドが主導権を握るのか、それとも中長期的視点に立ち、日本におけるマクドナルド事業をサポートしくれる企業が主導権を握るのか。ファンドになるのか、商社になるのか、他の企業になるのか?誰が日本マクドナルドの株を買うかは、マクドナルドの未来のあり方に決定的な影響を及ぼすことになるはずだ。