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「トリプルスリー」が「新語・流行語大賞」に選ばれた意味

2015年11月10日、「2015年ユーキャン新語・流行語大賞(以下、新語・流行語大賞)」が発表された。2014年には日本エレキテル連合の「ダメよ~ダメダメ」が大賞に選ばれたように、その年に人気になったお笑い芸人のギャグが選ばれることも多い。しかし今年は、とにかく明るい安村の「安心してください。穿いてますよ」というギャグがノミネートされたものの大賞には届かなかった。今年の大賞に選ばれたのは「爆買い」と「トリプルスリー」。「トリプルスリー」については「知らない」「流行っていない」という否定的も少なくなかったように、今年の選考は物議を醸した。今回は「新語・流行語大賞」の選考の是非ではなく、「トリプルスリー」に関連して別の切り口で話を展開していきたい。テーマは「能力の育て方・持ち方」だ。

 

■ そもそも「トリプルスリー」って何?

 

そもそもトリプルスリーとは何か。プロ野球ファンは知っているが、プロ野球に興味のない人はあまり知らない「トリプルスリー」という言葉。高確率でヒットを打つ技術、盗塁を成功させる速い脚力、ボールを飛ばすパワーを同時に持つという意味で偉業と呼ばれる。2015年、同じ年にトリプルスリー達成者が2名も出た。一人は東京ヤクルトスワローズの山田哲人選手、もう一人は福岡ソフトバンクホークスの柳田悠岐選手だ。彼らを入れてもトリプルスリー達成者は今までに10人しかない。

 

トリプルスリーが「新語・流行語大賞」にふさわしいかどうかは別にして、このマルチな能力を持った選手が二人同時に出現したことは、今の時代を反映しているのかもしれない。

 

■ 投手と打者の二刀流で成功している大谷翔平選手

 

マルチに活躍することは時代の流れの一つであると私は感じている。例えば、北海道日本ハムファイターズ大谷翔平選手。2015年は最多勝最優秀防御率、最高勝率、ベストナイン投手部門と投手タイトルを総なめした。また2015WBSCプレミア12、準決勝韓国戦では、試合には敗れたものの、7回まで1安打しか打たせない次元が違うとも言える素晴らしいピッチングを披露した。2014年には投手として11勝、打者とし10本塁打と2リーグ制以降初めて、二桁勝利、二桁本塁打も記録している。投手と打者の二刀流については賛否両論あるが、マルチな能力を伸ばしてここまで来たことは批判されるものではない。また、それが野球界を盛り上げていることも事実である。

特に若い世代にとってはマルチに才能を伸ばしていくことは当たり前のことであり、それが新しい時代を切り拓いていく面も増えているのだ。

 

■ ある若者のエピソード

 

最近、知人からスポーツ以外でもマルチな才能についての興味深い話を聞いた。その知人のお子さんはマルチな才能を持っている。俳優、カメラマン、ディレクター、デザイナー。まだ20歳過ぎという若さながら、その才能が認められ、多くのシーンで力を発揮している。先日、そのお子さんが、ある著名な映画監督と仕事をした際に、将来のことについての会話になったそうだ。その時に、監督から「いろいろやっているけれど、結局あなたは何がやりたいの?」ということを強く言われたそうだ。監督にしてみれば、一つのことに決めて必死になってその道を突き進むことが当たり前という認識なのだ。しかし、そのお子さんは俳優でもテレビや映画に出演し、クリエイターとしても雑誌や有名店舗のディスプレイなどで活躍している状況だ。どれも大事なことであり、伸ばしていきたいことなのだ。

 

その監督のように一つのことを突き詰めることはもちろん大事なことだが、その価値観だけに縛られる時代ではない。スポーツ業界、エンタテイメント業界だけにとどまらず、さまざまな業界において、新しい時代になってきたことを感じることが多くなってきた。

 

■ 将来、活躍するための条件

 

一つのことに打ち込むだけでなく、マルチに能力を伸ばすことが新しい時代の兆しだということは「学び」の場からも感じられる。

 

「学び」において暗記や反復学習は、一定レベルの基礎学力を養うために重要なことだ。しかし、長く続いてきた暗記型教育は、そろそろ見直すべき時期ではないだろうか。今はインターネットの時代だ。インターネットにおける情報の正確性や深さは精査する必要があるとしても、おおよそのことはインターネットでわかる時代だ。つまり以前と比べて暗記する重要性が低くなったのだ。むしろ「暗記して、一つのことを突き詰めること」以上に「多角的に、自分の頭で考えて、生み出すこと」の重要性が増しているのだ。

 

ビジネスの世界においても感じることがある。一つのことを突き詰めて達成する経験は重要ではあるが、多角的な知識・経験を得たり、異なる業界で働いたり、複数の仕事を持つことで、新しいアイデアが浮かんだり、ビジネスが生まることが増えている。ビジネスの世界でもマルチな能力を持つ人たちが所属、役職などに関わらず、新しい流れを生み出してきているのだ。

 

トリプルスリーは「新語・流行語大賞」にふさわしいかどうかは別だが、トリプルスリーの裏にある才能のあり方に関しては、今の時代を象徴しているように感じている。