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「名前募集バーガー」を食べ、感じた『マクドナルドの未来』

日本マクドナルドホールディングス(以下、マクドナルド)の2016年1月の月次セールスレポートによると、全店売上高は前年同月比30.9%増、既存店売上高35.0%増、客数17.4%増、客単価15.0%増となった。マクドナルドにとっては、久しぶりに大きな明るいニュースとなった。

 

■ 「名前募集バーガー」

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「北海道産ほくほくポテトとチェダーチーズに焦がし醤油風味の特製オニオンソースが効いたジューシービーフバーガー(仮称)」(「名前募集バーガー」と略す)を食べた。これは、単に新商品を発売するだけでなく、消費者から名前を募集し、決定した人には10年分のハンバーガーに相当する賞金をプレゼントするというプロモーションにもなっている。

 

さっそく、このハンバーガーと、新発売のマックチョコポテトを食べてみた。率直に言えば、ハンバーガーは、全体的なクオリティは従来のマクドナルドよりは上だと感じた。特に印象的なのはバンズが美味しくなっていることと、ポテトの食感が強いことだ。マックチョコポテトに関しては、甘さとしょっぱさが相まって、なかなか面白い味だ。ただ、どちらも、すごい美味しいかと言えば、そうではない。ハンバーガーも、スイーツも、もっと美味しいものは山ほどある。ここで言う「おいしい」とは、マクドナルド内の比較で言えば以前よりも美味しくなったということだ。

マクドナルドにとってはこれで良いのだ。マクドナルドにとって「味」は最大の価値ではない。「味」はそこそこで問題ないからだ。

 

■ 出尽くした悪材料

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レポートで、売上高、客数、客単価がプラスになった理由は、新メニュー投下によるものだけではない。大きな要因の一つは、マクドナルドの低迷がようやく「底」を迎えたということだ。2014年7月の食品消費期限切れ問題や2015年1月の異物混入問題なども安全問題、カサノバCEOの会見のミス、本社による日本マクドナルド株の放出報道など、ここ2年間近くマクドナルドにはネガティブなニュースばかりが目立った。

 

業績の悪化に歯止めがかからず、2015年から2016年初頭にかけて、約150店舗以上を次々に閉店させるという事態も招いた。不振を脱するため、ようやく2015年の夏くらいから、それまでのやり方を見直すようになった。カウンターメニューを復活させ、店頭オペレーションを改善し、不満が続出したFC店への配慮を高めるなど、マクドナルドは地道な努力を続けるようになってきたのだ。

 

■ 店頭の努力

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マクドナルドがこうした努力を続ける中で、消費者としても、マクドナルドをこれ以上拒否し続ける理由が薄れてきた。

 

一連のネガティブなニュースを受けて、子供の頃からマクドナルドを好きでよく食べていた人たちですら、マクドナルドを食べることを止める時期が長く続いた。しかし、子供の頃に刷り込まれた味は、時に恋しくなるものだ。ある時にフッと思い出し、たまにはマクドナルドに行って、フライドポテトやハンバーガーを食べても良いかと思うようになったというの実情だろう。

 

そして、約150以上もの店舗が閉店されたことも消費者心理に影響を与えた。最近は行かなくなった人も、子供や学生の頃にはよくマクドナルドに行っており、それぞれに思いでもある。長い間、当たり前のように見ていたマクドナルドがなくなることを残念に思う人も少なくなかったのだ。後ろ姿のドナルドが手を振るシーンのポスターはSNSでも、数多く拡散され、久しぶりにマクドナルドに好意的なムードが出てきた。そこに現場の改善状況が重なった。

 

もともとマクドナルドは店員の「スマイル」、つまり雰囲気の良さを売りにしてきた。そこそこ美味しく、そこそこ安い、そしてとても楽しい場所であることがマクドナルドの売りだった。スターバックスコーヒーが、家と会社の間にある、くつろげる第三の場所を提供することを売りにしていたのに似て、マクドナルドも、味や価格ではなく、店が醸し出す空気感そのもので、多くの人に支持されていたのだ。

 

2015年春までのマクドナルドは、本部と店には明確な上下関係があった。数字もやり方も本部の指示に従うことが求められた。本部の利益追求主義によって、FC化が促進され、その結果、店頭が疲弊した。2015年半ば、消費者から見放され続けたマクドナルドの本部は、そのやり方を見直し始めた。店頭視察をする中で、少しづつではあるが、明らかに店頭の動きが変わってきたことを感じるのだ。

 

最近、店頭のスタッフが中心になって、子供たちにハンバーガーを作る教室を開くなど、マクドナルドとお客さんが杓子定規ではなく、あたたかいやりとりで繋がるようなプロモーションが増えてきた。今回の「名前募集バーガー」プロモーションにおいても、お客さんから応募を募るだけでなく、店員自ら、こんな風に名付けますという直筆の案を店内に掲示していた。

 

つまり、店頭が本部から「やらされる」という受動的な姿勢から、自ら「やろう」という能動的な姿勢に変わってきたのだ。これがマクドナルドが上向きつつある大きな要因になっている。

 

■ Arai’s Eye<復活の鍵>

 

企業の存在価値を正しく見極める。

マクドナルドは「現場」の魅力にあり。

 

マクドナルドは「低迷の底」を過ぎ、「現場も改善」しつつあある。消費者のネガティブムードも少しづつ和らいできた。マクドナルドという会社にとって、これからどこまで復活できるかは、美味しいメニュー開発に没頭することではない。それよりも、マクドナルドが日本中から愛された店頭や店員の雰囲気がどこまで取り戻せるかによるのだ。かつてオリエンタルランドとともに、日本最高のスタッフ教育を誇ったマクドナルド。どこまで基本に立ち返れるかどうかが、マクドナルドの復活の鍵になるだろう。