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なぜ福岡県観光プロモーション「ぴりから」は注目に値するのか。

2016年2月から福岡県が開始されたキャンペーンが面白い。「内容」もさることながら「ビジネスモデル」の作り方もおもしろい。

キャンペーンの内容を簡単に説明すると、福岡の「食」「文化」「歴史」等について、7人の著名人がWEBで小説を書いていくというものだ。小説では、執筆者7人が、福岡県での実体験や思い出を語る。2月12日の配信開始以降、毎週金曜日に更新される仕組みだ。

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■ なぜ、この7人が選ばれたのか?

執筆者は、ホリエモンこと堀江 貴文さん、 2015 年の直木賞受賞作家である東山彰良さん、人気放送作家の鈴木おさむさん、「ビリ ギャル」著者の坪田信貴さん、アナウンサーの小林麻耶さん、モデルの田中里奈さん、「伝え方が 9 割」で有名な佐々木圭一さんの7名。

 

ここでのポイントは、福岡出身の人たちと福岡出身ではないが福岡の良さを実感した人たちがリアルに起用されている点だ。地方自治体が、地方活性化のプロモーションをしていく上で、一人のキャラクターを立てて、一方的にメッセージを発信するケースはある。しかし今回のプロモーションでは、一人のイメージキャラクターを起用するのではなく、複数人の人たちを起用し、それぞれが実感ベースで情報を発信するようになっている。ある一つのメッセージ、例えば有名な特産品や観光地がかなり魅力的で、そこに照準を絞ってアピールできる自治体もある。その一方、一つのメッセージではインパクトが打ち出せなかったり、逆に、魅力がたくさんあり過ぎて一つのメッセージでは魅力を伝えきれない地方も少なくない。福岡県はまさに多種多様な魅力があったため、一つのメッセージに絞らなかったのだろう。

 

人選にも工夫がみられる。著名人であれば、誰でも良いわけではない人選が見える。堀江さんや東山さんのように福岡に住んでいた著名人たちが地元の魅力を語るというプロモーションにも出来ただろう。しかし、あえて福岡出身以外の人たちも入れ、福岡の魅力を語ってもらうことによって、福岡の魅力を伝える内容に深みが出ている。

 

今回、クリエイティブディレクターでもある佐々木圭一さんが行った手法は、福岡県のみならず、全国各地の地方自治体が参考になるやり方だ。一つのメッセージに絞るのではなく、そこにゆかりのある人達が、それぞれに感じている魅力を発信することで、多岐に渡る魅力を伝えることができる方法なのだ。

■ 「既存×既存=新しい魅力」というモデル

最近、地方自治体のPRも、とても頑張っている。特にWEBにおけるムービーが一般的になってからは、それぞれの自治体が工夫をこらしている。方言がフランス語に聞こえるということで話題になった宮崎県小林市の移住促進PRムービー “ンダモシタン小林”、特産品である刃物をアピールする岐阜県関市のPRムービー「もしものハナシ」など。アイデア一つで、日本全国へ魅力を伝えることが可能になった。

 

佐々木さんも約20年に渡り、クリエイティブに携わる仕事をしており、こうした流れは当然把握し、作成することも可能だっただろう。ただ、こうしたブームにおいても、あえて別の切り口を持ってきた。それは前章でも書いたように、福岡県の魅力を伝える上で、一つに絞るよりも、多種多様な魅力を打ち出すことが有効だと判断したからだろう。そして、伝える手段として、ムービーではなく、別の切り口が良いと判断したのだろう。

 

率直に言えば、Web小説も、著名人起用も珍しいことではない。ただ、いくつか新しい試みが入っている。一つは「ぴりから」な格言を小説には必ず入れるというテーマが著者に与えられている点。もう一つは、リレー形式で書かれる中で、前の著者の小説の要素を、次の著者が反映しなければならないという点だ。このように、新しく面白い試みだからこそ、多種多様な業界で活躍する著名人たちが登場してくれることに結びついたのだろう。

 

ちなみに、今回のプロモーションの作り方は、地方活性化のクリエイティブの話のみならず、ビジネスモデルを作る上でのヒントにもなる。一つ一つは珍しくない「既存」と「既存」のアイデアを、ある視点を付け加えつつ昇華することで、まったく新しい魅力や価値が生まれるという好例でもあるからだ。

■ イメージPRに終わらない仕掛け

地方自治体のPRというと、イメージアップを目指して作られるものの、ともすれば、なんとなくやって終わったというケースも少なくない。今回のプロモーションにおいては7名の執筆陣が小説の中で、オススメスポットを紹介している。つまり、単にイメージを伝えるのではなく、具体的な情報を提供し、読者が行動するところまで落とし込む設計がされている。

 

そして、一般の方々に対しても、福岡にまつわる小説を募集している。一方的に情報を伝えるのではなく、一般の方々も参加できるような「巻き込む」仕掛けを作っているのだ。ちなみに商品は「めんぶらん」。福岡の特産品である明太子の形をした万年筆モンブランが、最も素晴らしい作品を書いた人に当たる仕組みになっている。モンブランは高級万年筆という高いブランドイメージがあるが、そのモンブランから許諾をもらった点もなかなかである。モンブランマニアのみならず、この遊び心満点のめんぶらんが欲しいがゆえに、応募する人もいるのではないだろうか。

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■ 最後に

地方自治体の魅力を伝えるムービーがブームではあるが、福岡の魅力を伝えるために、何をすれば良いのかという目的をしっかりとらえ、始まった本プロモーション。奇をてらうことなく、丁寧に企画が作られ、調整が行われ、進んでいる。本プロモーションは、多くのビジネスマンにとって、プロモーションのみならずビジネスモデルを作る上でも、参考になる手法でもあるだろう。

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