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ベッキー復帰に見る「謝罪」手法の変化

5月13日、休養中だったタレント、ベッキーさんがTBSの「金スマ」で久しぶりにテレビ出演を果たした。復帰の是非、復帰の時期などについて、視聴者ひとりひとりの意見は異なると思う。ただ、ネット等の反応を見ると、週刊文春の記事が出た直後に行った会見後と今回の会見後では、今回の方が好意的な意見が多かったように見受けられた。

 

私はマーケティングコンサルタントの立場から、今回の「謝罪」「復帰」についてお話ししたい。

■ 謝罪会見の3つのポイント

 

企業に不祥事や問題などが起き、謝罪をする時にいくつかのポイントがある。その中で、もっとも重要な3つのポイントは、芸能界においてもあてはまる部分が大きい。謝罪会見における3つの重要ポイントは以下の通りだ。

 

1)すぐに会見をする

2)明確に謝る

3)嘘をつかない

 

ベッキーさんの場合、1「すぐに会見をする」と2「明確に謝る」に関しては休養前の会見で守っていた。しかし、肝心の内容に嘘が入っていたため、逆に大きな問題となってしまったのだ。今回、会見という形ではなくテレビ番組の中での謝罪という形になった。今回は、会見という形式ではなかったが、前回の失敗を活かし、3の「嘘をつかない」ということも守っていたのだろう。謝罪関連の内容としては、3つの重要なポイントを抑えた形になった。

 

■ 謝罪・復帰のやり方としてはひとまず成功

 

SNSでの取り上げられ方を見ると、今回の謝罪・復帰がどうだったのかという大まかな部分が見えてくる。最近「テレビを見ながらSNSで情報を発信する」という人が多い。今回も多くの人がこのスタイルで視聴をしていたようだ。

 

ツイッターを見ていると「金スマ」が放映された時間帯には「ベッキー」というワードで約15万のツイートがあった。内容を見ると、プラスの内容がマイナスの内容よりも上回っていた。休養前の会見では、圧倒的にマイナスの内容が多かったことと比べると、今回の謝罪・復帰についてのやり方は成功だったと言えるものだったのだ。

 

この中で、注目すべきは「中居くん」というワードだ。「中居くん」というワードでのツイートが約1万2千、「#金スマ」の約2万に次ぐツイート数だ。今回、ベッキーさんの謝罪・復帰をは記者会見ではなく、テレビ番組内での中居くんとベッキーの対話形式で伝える形にした。中居くんの厳しさと優しさのある率直なリードによって、ベッキーさんは言いづらいことも含め、伝えたいことを伝えることができた部分が大きかったのだろう。この結果、視聴者から中居くんへの評価も大幅に上昇した。SNSはポジティブにも、ネガティブにも、その方向性を加速させる傾向がある。今回は全体的にポジティブな方向に流れる形となった。

 

ただ、謝罪・復帰のやり方が成功で終わったことと、ベッキーさんがかつてと同じように今後も活躍できるということは同じ意味ではない。これから、どこまで活躍できるかどうかは、ベッキーさん次第になるだろう。

 

■ 注目すべき「一変した謝罪・復帰の手法」

 

今回、もっとも印象的なだったことの一つは、謝罪・復帰のやり方が大きく変わったということだ。一言でまとめると「伝えたい側が内容をコントロールしやすくなった」ということだ。

 

今までは、謝罪と言えば会見という形が普通だった。会見では、伝えたい側が謝罪などの気持ちを伝えるだけでなく、記者からの質問も受け付ける形が普通だ。緊張状態にあると、人は本来の状態で話ができなくなることもある。また予期せぬ質問が投げかけられることもある。その結果、話し方や内容まで、自分の意図とは異なる形で、相手に伝わってしまい、結果的に謝罪会見が失敗に終わるということが往々にしてあるものだ。

 

今回のように、テレビ番組などのメディアを利用することで、伝えたい側は、ベストな状態で、内容をコントロールして伝えることができる。ベッキーさんの謝罪・復帰だけでなく、年初に起きたSMAPの謝罪など、テレビ番組を使った手法が増えてきたのは、こうした理由からだろう。

今後も、伝える側にとっての予測不能なリスクを下げるためにも、芸能界においては、このような手法も増えていくのではないだろうか。

 

■ 今後、ベッキーさんの広告起用はどうなるか

 

今回のベッキーさんの謝罪・復帰のやり方自体は成功と言えるだろう。しかし今後、広告やテレビ番組での起用については状況は異なる。広告主の立場とすれば、タレントを起用する時、タレントの知名度だけでなくイメージや好感度も考慮する。したがって、広告主が今までのように、広告等に起用することは難しいだろう。

 

今回の「金スマ」でも3社のCMがACに差し替えられていた。このことからわかるのは、様子見をしたい広告主の気持ちだ。ベッキーさんが出演することで、視聴者がどのような反応を招くのか見極めたいという広告主の慎重な姿勢がここから見えてくるのだ。

 

広告主の慎重さを加速させることになった一つの例がある。この3月に、日清食品が行った広告キャンペーンだ。矢口真里さん、新垣隆さんなどを起用したCMを作成・放映したのだが、批判が殺到し、約1週間で取りやめとなった。広告のことを熟知している日清食品ならば、今回の起用がある程度の批判も来るだろうと想定してキャンペーンを始めたはずだ。しかし、それでも取りやめたという事実は、想定以上に消費者の反応に厳しいものがあったということだ。つまり、このようなケースでのキャラクター起用については、まだまだ慎重にならざるをえないことが浮き彫りになっただけでなく、他の広告主に対しても大きな影響を与えてしまったと言えるだろう。