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『セブンイレブン VS ミスド』ドーナツ戦争の行方

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2016年3月、ミスタードーナツ(株式会社ダスキン運営、以下「ミスド」)は、2017年までに全体の3割にあたる約400店程度で「オールドファッション」など定番の6商品の価格をの1~2割を値下げすることを発表した。

 

この決定の裏には、コンビニドーナツとの競争が激化することへのミスドの戦略が見え隠れする。セブンイレブンは2015年よりドーナツの全国販売を開始したものの、2015年は目標数字には届かなかった。そのため、2016年初頭、セブンイレブンは味を始めとするドーナツの品質を改善し、ラインアップにも手を加えた。店頭の定点観察、店員からの話、私を始め食べた人の感想を踏まえると、改善されたセブンドーナツはかなり好評で、ミスドにとっては無視できないものになってきた。

 

私は2015年4月のブログ

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で、セブンドーナツはミスドにとって脅威にはならないと書いた。そして予測通り、2015年にはセブンドーナツがミスドを脅かすような状況にまではならなかった。ただ2016年に入り、セブンドーナツがリニューアルされたことで、状況は変わると私は推測している。ここ最近における定点観察やヒアリング、広告や販売促進活動などプロモーション活動の強化を見ても、セブンドーナツの状況は2015年までとは明らかに違うのだ。ミスドも、この状況を把握した上で、今回の決定を下すことにしたのだろう。

 

■ ミスド「定番値下げ」の背景

 

今回のミスドの戦略が、セブンイレブンを始めとするコンビニドーナツへの対抗策であるのは、値下げする主要品目を見ても明らかだ。値下げする商品の中心は「定番商品」だ。

 

マーケティング的に言えば、価格を下げることにより、販売量を増加させることは、難しいことではない。しかし、価格を下げることは、短期的には販売増というメリットを享受できる反面、中長期的に見ればリスクもある。なぜなら、消費者心理を考えれば、一度下げた価格を再び上げることは難しいからだ。だから、企業が価格を下げる場合、キャンペーンなど期間に制限を設ける形で実施することも少なくないのだ。

 

販売を増加させるために価格を下げるということはマーケティングの最終手段と考えるべきなのだ。特に企業にとって安定的に売り上げが計算できる「定番商品」を値下げするということは大きな判断となる。ミスドはあえてその安定的な部分にメスを入れた。本来、「定番商品」は値下げすべきものではないが、それでも値下げをしなければならない現状をミスドは感じているのだ。

少し話は逸れるが「定番商品」値下げについて豆知識的なことをお伝えしたい。基本的には「定番商品」は値下げすべきではないと伝えたが、定番を値下げした方が良いシチュエーションもある。それは、数年、数十年にも渡り販売されており商品認知度は高いものの、利用・購入経験や利用・購入意向を持つ消費者が少なくなっているケースだ。この場合、値下げをすることで、消費者の利用・購入率は上がり、「定番商品」のイメージ・販売を再活性化させるのだ。この結果、休眠客(長い間、利用・購入していなかった客)や新規客が増える。そのため、中長期的にも成長軌道に繋がっていくのだ。

 

■ ミスドの「定番値下げ」の意味

 

今回のミスドの「定番値下げ」戦略が興味深いのは、販売不振による「定番値下げ」ではない点だ。ミスドがあえて「定番商品」を値下げしたのは、コンビニドーナツへの対抗策ということはデータからも明らかだ。ここ数年、ドーナツ専門店の市場規模は約1200億円で横ばいが続いている。確かに、コンビニドーナツは2015年に約200億円、2016年にはさらなる成長が見込まれているものの、ミスドが「定番値下げ」を決定した時点においては、ドーナツ専門店の市場を獲得できていない。つまりミスドが「定番値下げ」を決定したのは、コンビニドーナツが脅威となることを見越して、先手を打つ形で行われたものなのだ。

 

売上が悪くないにも関わらず、ミスドに「定番値下げ」を決定させた大きな理由は、コンビニドーナツ、特にセブンドーナツの品質改善、味の向上が進んでいるためであろう。コンビニでは、オールドファッションなどミスドの定番商品とそっくりの商品が販売されている。ただ、2015年は、見た目こそそっくりだが品質、特に味には大きな違いがあった。そのため、セブンイレブンのドーナツは話題性抜群で登場し、発売当初こそ売上は良かったものの、リピーターが増えず、販売は低迷してしまったのだ。

 

コンビニドーナツの品質、特に味が改善がされた。こうなると、ミスドと見た目がほぼ一緒で、味も近くなり、価格は安い。ミスドの値下げは140円の商品が108円に、151円の商品が129円になっている。コンビニドーナツの主力価格帯は100円である。2015年までのように、コンビニよりも約30円から約50円高い状況のままでは、市場を侵食される危険性があるとミスドは危機感を募らせているのだ。

 

■ まとめ

 

ドーナツ市場全体を見る上では、どのようなシチュエーションでドーナツが購入され、食べられるのかというイートイン、テイクアウトの視点、手土産・おみやげとしての視点なども考慮に入れるべきではある。ただ、コンビニドーナツ最大の課題点であった品質・味が改善された以上、コンビニドーナツの成長は間違いない。店舗数の違いも大きい。1296店舗(2016年3月期第二四半期発表)のミスドに対して、セブンイレブンだけでも18572店(2016年2月現在、国内店舗数)と10倍以上の店舗数の違いがある。セブンドーナツの美味しいという評価が定着すれば、この店舗数の違いが波及効果を加速させていく。

 

ミスドの「定番値下げ」は2020年までに1年間に約200店舗ずつ改装していく中で、高付加価値商品を投入するのと並行して行われる予定だ。最大改装店舗は約1000店舗を予定している。マーケティングの理にかなった手法であると感じる一方、日々、改善を繰り返すコンビニのスピード感に負けてしまわないかという懸念は残る。ミスドにとって状況が悪化することがあれば、改装を待たずに「定番値下げ」を先行させることになるだろう。