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アイドルビジネスに革命をもたらした「みんなの山本彩」

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NMB48山本彩さんが出した写真集「みんなの山本彩」が話題である。話題の理由は、写真が一般のファンから集まった600枚で構成されているからだ。3週間限定で、オンオフ問わず、山本彩さんを撮影し、写真を送ってもらうという画期的な試みがなされたのだ。

 

書店に行き、実際の写真集を手にとって見てみた。遠くから撮ったためピントが微妙だったり、構図がぐちゃぐちゃなものも少なくない。また、鼻の中が見えるようなアングルから撮影されたもの、無防備な表情をしているもの、おかしなポーズを撮っているものなど、こんなものを出して良いのかと思える写真もあり、中身はカオス状態だ。

 

私は山本彩さんのファンではないのだが、ここ最近の彼女の活動には注目していた。ツイッターで発信される内容は面白い。AKBグループのトップの中でもリツイートされたり、お気に入りにいれられる数はかなり多い。2015年冬、男性誌「GOETHE」の秘書特集では、秘書の雰囲気で巻頭を飾るなど、また異なる一面を見せていた。彼女については、ファンでない私よりも、ファンの人の方がはるかに多くのことを語れるとは思う。ただファンではない私のような人が、気になるような言動が最近増えているのも事実だ。そこに来て、今回の写真集。率直に興味深いと感じた。

 

■ 一般的な写真集と今回の写真集の「違い」とは何か

 

一般的な写真集と、今回の山本彩さんの写真集の「違い」はなんだろうか。主に3つの違いがある。

 

まず「コスト」面だ。カメラマンやカメアシも必要なく、メイクも必要なく、スタイリストも必要なく、スタジオ費も、ロケハン費も、ロケ費も、海外渡航関連費も必要ない。つまり、コスト面で圧倒的にプラスになるのだ。数百万円かかる費用がゼロに近くなる。

 

つぎに「イメージ」面だ。一般的に、タレントのイメージを管理することがマネジメントの仕事である。しかし、今回の写真集では、管理は最小限にとどめられている。ファンから送られてくる写真の取捨選択がメインだ。しかし、この点においても、普通では考えられないほどストライクゾーンが広い。

 

最後は「オンオフ」面だ。従来のタレント活動では、オンとオフが切り分けられていた。仮にオフショットの撮影でも、ある意味オンと言えるものだった。しかし、今回はオンでもオフでも撮影される可能性がある。これらの点において、今回は今までのものとはまったく異なるのだ。

 

■ アイドル像の変遷

 

1980年代半ばまでのアイドルは言動が完全にコントロールされていた。ファンとすれば、テレビの向こう側にいる、まさに偶像だったのだ。それが変わってきたのは1985年に出現した「おニャン子クラブ」。彼女たちの出現によって、自分の近く、現実にアイドルは存在するのだということを実感することになった。そして1997年のモーニング娘。、2005年のAKB48と出現した。今さら言うまでもないがAKB48のコンセプトは「会いに行けるアイドル」である。ファンとより近くになったアイドルたちは、メディアに出たりしている間も、作られた魅力ではなく、自分自身の魅力を最大化させようとしてきた。

 

山本彩さんがやったことは、そのさらに先を行くものだ。オンの時にだけ、自分自身の魅力を最大化させるのではなく、オンでもオフでも「素」の状態をさらけ出したのだ。作られたオンだけでなく、イメージコントロールの効かないオフの状態を魅力と感じてもらえるかどうかはファン次第である。正直、これは大きな賭けであったろう。ただ、こうして成功したことは、山本彩さん自身の魅力があったということである。そして、このビジネスモデルを仕掛けたことは、賞賛に値する。

 

■ 写真集に自分の名前が掲載されるファン心理

 

採用された写真を撮影した人たちは巻末に自分の名前(ペンネーム)が列記される。一部、高柳明音さんのようにAKBグループメンバーの名前も入っている

 

が、ほとんどはファンである。ファンにとって、自分自身でアイドルを撮影し、その写真が写真集に掲載され、自分の名前が掲載される一連のプロモーションは、応援度をますます強めることにつながるだろう。

 

そもそも自分の名前が作品に掲載されるのは嬉しいものだ。余談になるが、私自身、数年前に、自主映画の制作に関わらせていただいたことがある。その映画は、アトランタ国際映画祭でアワードをいただくまでになったのだが、エンドロールに自分の名前が掲載されていたのは嬉しかった記憶がある。私やスタッフだけでなく、エキストラなどで協力してくれた人たちの名前も同様にエンドロールに掲載された。アトランタでの受賞後、帰国し上映する時には、自分たちが映画に関わった証を一目見ようと、全国各地から、協力してくれた人たちが映画館を訪れた。ファンにとって、作品に参加する喜びがどんなものなのかを実感した経験だった。

 

■ Arai’s EYE<山本彩さん写真集のビジネス的意義>

 

新しいビジネスモデルが芸能界に誕生

 

オンオフ問わず、すべてをさらけ出すという行為は、素の自分に相当の自信と力がないと成立しない。トップアイドルのポジションにありながら、リスクを恐れず、新しい試みに踏み切った山本彩さんとスタッフには、次に何をしかけてくれるか大変楽しみになってきた。

 

関係者ではなくファンが芸能人の作品を作る。今回は写真集だが、今後は写真集だけでなく、より幅広い方向に拡大していくことだろう。ビジネスの世界でも言えることだが「共感度」が強いコンテンツは支持が高くなり、拡散される傾向が高い。その点、今回のような「共感度」が高くなるファン参加型の企画は話題にもなりやすいのだ。したがって、今後出てくる別の「共感度」が高い企画も大きな話題になることは大いに期待できる。

 

「みんなの山本彩」は、芸能界に新しいビジネスモデルの誕生を予感させる大きな一歩と言えるのだ。