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「大塚家具」リニューアルで感じた久美子社長の本気

 

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2016年2月5日、大塚家具からリニューアルに伴う内覧会のDMをいただいたので、時間をやりくりして新宿のショールームを訪れた。私は日本最大級の展示スペースを誇る有明本社ショールームに訪れることが多いのだが、この日は時間がなく新宿を訪れた。実際のリニューアルオープンである6日に先駆けての案内だ。

 

新宿店の受付スタッフに聞くと、有明本店などのリニューアルはまだこれからで、新宿が一番早いとのことだった。新宿店で見たのは、今までの大塚家具とは異なる大塚家具の姿だった。そして、そこでは、大塚久美子社長の意気込みのようなものがじわじわと伝わってきた。

 

■ 店内入口の「スター・ウォーズ」コーナー

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店内に入り、まず驚いた。今までの大塚家具とは異なる姿がそこにあったのだ。大塚家具と言えば、高級家具・インテリアがメイン商材だ。新宿店の入口は2ヶ所ある。そのどちらの入口そばにあったのは「スター・ウォーズ」コーナーだった。

 

甲州街道沿いの入口には、少し前に話題となったハイアール製 R2D2等身大冷蔵庫が販売されていたり、ダースベイダーの頭部型冷蔵庫(350ml缶が1本だけ入れられる)が、残り展示品のみで販売されていた。そのほか、フロアマット、ウォールパネル、コースターなど、インテリアのための小物も種類豊富に販売されていた。20種類あったクッションは大塚家具でしか販売していない商品だと店員の方が説明してくれた。

 

また、反対側の入口展示スペースでは、一つ一つの商品を見せるのではなく、部屋をレイアウトした形で見せていた。

 

■ 変化のシンボル1 <スター・ウォーズ

 

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スター・ウォーズ」以外の1Fのスペースを見ると、やはり今までの大塚家具の雰囲気とは異なる明るめのカラー、ポップやキュートを感じさせる色使いの小物や家具が目立った。雰囲気でいうと、ACTUSフランフランなど20代から30代の女性に支持されそうな雰囲気だ。その小物や家具は、決して既婚者や大家族向けのものではなく、独身女性が購入しても違和感のないように感じた。この点も今までの大塚家具とは異なる。今までの大塚家具は、主に既婚者がターゲットである。しかも比較的、年齢も、可処分所得も高い人達が訪れる店舗であった。若い人達がいたとしても、その親と来ており、一緒に選んでも、支払いは親というケースも多々見受けられた。

 

したがって、内覧会を見る限り、今までの販売アプローチとは大きく変わったというのが印象だ。

 

■ 変化のシンボル2 <EDITION BLUE>

 

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1Fスペースで、驚きを与えてくれたものの一つに「EDITION BLUE」がある。EDITION BLUEは、久美子氏が社長就任以前に、外苑前にオープンさせた北欧系のテーストを感じさせる若者向けのインテリアショップだった。ところが経営権を巡る親子の争いが勃発し、2014年、業績不振により久美子氏が社長解任されると、EDITION BLUEも閉店してしまったのだ。もともと社長就任以前から久美子氏は、若い人達へアプローチすることを考えて、外苑前のEDITION BLUEや目黒のMorgenmarkedなど、従来の大塚家具とは別の店舗を展開していた。それが争いの中で閉店に追い込まれていたのだ。社長となり、再び主導権を握る中、新宿店の入口そばに、EDITION BLUEの文字とともに、若者向けのインテリアが大々的に展開されていたことは、まさに久美子社長が考える「新しい大塚家具」への意気込みを感じさせるものだった。

 

■ お土産はアンリ・シャルパンティエのサブレ

 

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DMを持参した来場者へのプレゼントはピンク色の箱に入ったアンリ・シャルパンティエのハート形サブレだった。これも従来の大塚家具の顧客層からすれば、ジャストフィットではない。ただ、ここでも久美子社長は「大塚家具は変わる」ということを貫いて主張したかったのだろう。EDITION BLUEやプレゼントを見るだけでも、久美子社長が自ら強い思い入れを持って、今回のリニューアルを主導してきたことが手に取るようにわかる。

 

■ 小物取扱強化とポイントカード

 

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今回のリニューアルでは、小物の取扱いも大幅に強化された。高級家具になればなるほど、一生に何度も購入するものではない。今までの大塚家具のやり方は、祖父母から父母へ、父母から子へ、子から孫へと、大塚家具はお客さんとの関係を世代を超えて続けるやり方であった。だからこそ、結婚する時、新居を建てる時などに、自分ではなく、その親が人生の一大イベントのプレゼントとして購入することも多かったのだ。

 

小物を強化するということは、人生の一大イベントに購入してもらう従来とは異なり、日常的に来店し、購入してほしいというやり方だ。導入されたポイントカード(IDCパートナーズ、 gIDCはゴールドパートナーズ。購入金額100円ごとに1ポイントたまる。1ポイント1円として買い物やサービスメニューに利用可能)は大塚家具に何度も来てもらい、購入してもらうことを目的とするツールだ。頻度高く来てもらい、小物などを購入してもらう中、いずれベッドやテーブルなどの高額商品も買ってもらいたいという意図がそこに見える。冒頭で取り上げた「スター・ウォーズ」の展開も、話題性を作り来てもらい、小物を買ってもらうことが目的だ。

 

■ Arai’s Eye<総括>

 

今回の視察で、大塚家具が従来から大きく変わろうとしていることを肌で実感した。またその裏に、大塚久美子社長が強い主導権を持って、経営面だけでなく、マーチャンダイジング面やPRなどの広報宣伝面においても関与していることが伺えた。

 

比較的高齢な富裕層をターゲットした家具全般の御用聞きビジネス中心から、自分らしく日々の生活の質を高めて生活したい若年層をターゲットにしたライフスタイルショップ的ビジネスをより強化する形を取った。

 

確かに近年の日本の経済状況を見れば、この戦略シフトは新しい需要の取り込みとして理にかなっているように見える。しかし、そこにはすでに複数の競合企業がいるのも現実だ。興味深い取り組みではあるが、この道は大塚家具にとって決して楽な争いではない。今後は、従来からの強みであるホスピタリティ、深く広い商品知識、深い信頼関係にある顧客対応に加え、魅力的な品揃えの強化継続、定的的な話題作りなどがより重要になってくる。経営者として、短期的な結果も求められる中で、大塚家具はこうした活動をより一層強化してくることだろう。