マーケティングの現状と未来を語る

世の中のニュース、トレンド、ブームをマーケティング視点からわかりやすく解説します

なぜ公開直後に「妖怪ウォッチ」が「スター・ウォーズ」の来場者数を上回ったのか?

2015年12月18日、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(以下「スター・ウォーズ」)が公開され、日本でも大きな盛り上がりを見せている。10年ぶりの新作であることや、ウォルト・ディズニー・カンパニーがルーカスフィルムを買収したことで、大々的なプロモーションをかけやすくなったこと等も、空前の盛り上がりを下支えしている要素だ。映画「スター/ウォーズ」に関連する企業の一例を挙げるだけでも、以下のようになる。全日空、キリンビバレッジ、シック、セキスイハイムセブンイレブン、ハイアール、アート引越センター、森永製菓、ロッテ、ヒューレットパッカード資生堂南海鉄道等、まだまだ多くの企業が映画「スター・ウォーズ」に関連した広告、プロモーション、コラボグッズを手がけているのだ。

 

さて、2015年は映画が盛り上がった年になった。2015年10月には「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が大きな話題を呼んだ。これは新作ではなく、かつての映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」の中で、マーティーとドクがタイムスリップした未来の日付が2015年10月21日だったことによる。東京各地で記念イベントが開催され、大いに盛り上がったことは記憶に新しい。

 

親になった人たちが、自分自身が子供の頃に見た映画を、自分の子供たちと楽しむ機会が増えている。「スター・ウォーズ(シリーズ)」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のほか、現在公開中の「クリード チャンプを継ぐもの」も「ロッキー」の流れを汲んでいる。この意味でも、今シーズンの上映の主役は押しも押されず「スター・ウォーズ」だと予測されていた。

 

2016年1月2日3日の映画観客動員ランキング(興行通信社調べ)によると「スター・ウォーズ」は「妖怪ウォッチ」を抑えて首位となった。しかし、これほど話題性の高い「スター・ウォーズ」も公開第1週、第2週は「妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!」(以下、映画「妖怪ウォッチ」)に負けていたのだ。世の中の雰囲気では「スター・ウォーズ」が爆発的な話題を獲得する一方、「妖怪ウォッチ」はあまり話題にはなっていない。なぜ映画「妖怪ウォッチ」が「スター・ウォーズ」を上回ったのだろうか。

 

■ ブームを終え、定番への道を進む「妖怪ウォッチ」

 

2014年から2015年初頭にかけて爆発的ヒットとなった「妖怪ウォッチ」。そのヒットを支えたのは「妖怪メダル」の存在だ。おもちゃ屋、量販店のおもちゃ売り場にあるガチャポンでは、いつもメダルが売り切れ、入荷するタイミングを店側が告知すると、その日時には行列ができるほどになった。平日昼間、子供達が学校に行っている間、スーツを着たサラリーマンがガチャポンにならび、何度も回していた。お父さんが子供のために、仕事の合間に買いに来たのだろう。ブームは、ガチャポンでメダルを買うだけではない。「妖怪ウォッチ(時計のおもちゃ)」が発売されると、瞬く間に売り切れとなった。入荷数にも限りがあるので、抽選販売の状況が続き、ネットオークションではメダルとともに高値で取引された。

 

ブームとは瞬間的に話題になることだ。「妖怪ウォッチ」は大きなブームを巻き起こしたが、そこで消えなかった。子ども達の間で定番化しつつあるのだ。定番になると、ブームのような大きな話題にはなりにくい。しかし「ドラえもん」「ポケットモンスターポケモン)」のように、静かだが高い人気をキープしつつ、毎年末の映画シーズンには多くの人たちが見にくるようになるのだ。

 

■ 2014年から仕掛けられていたプロモーション

 

「妖怪ウォッチ」を手がけるレベルファイブレベルファイブが「妖怪ウォッチ」をヒットさせたのはクロスメディア戦略によるものだ(詳しくは2014年12月27日 All about「3分でわかる『妖怪ウォッチ』成功のからくり」にて)。用意周到に準備し、多くのメディア・企業を巻き込むことで大人気コンテンツに成長した。

 

レベルファイブが戦略上手であることは、現在公開中の映画にも言える。2014年末に公開された映画「妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!」。この時、すでに2015年の映画化が決まっており、映画でも告知された。「ドラえもん」など年末に必ず映画公開をするコンテンツならば当たり前のことだが、ブームの先がまだどうなるかわからないという声もあった中で、レベルファイブは翌年末の映画化を決めていたのだ。もちろんクロスメディア戦略が基本なので、映画に伴って任天堂DSでのゲーム発売なども行っている。

 

■ 「妖怪ウォッチ」勝利のカラクリ

 

今まで述べてきたように「妖怪ウォッチ」のコンテンツの強さ、レベルファイブの戦略の上手さによって「妖怪ウォッチ」は安定した人気を獲得している。では「スター・ウォーズ」に観客動員数で勝てたのはなぜなのだろうか。

 

興業通信社の発表によると、2015年12月19日(土)20日(日)の「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」の観客動員数が80万258人。映画「妖怪ウォッチ」は97万4557人となった。公開は「スター・ウォーズ」が12月18日の18:30から、「妖怪ウォッチ」は12月19日からとほぼ変わりはない。上映スクリーン数は「スター・ウォーズ」が958、映画「妖怪ウォッチ」は434と「スター・ウォーズ」が2倍以上となっている。上映分数は「スター・ウォーズ」が136分、映画「妖怪ウォッチ」は97分。「スター・ウォーズ」の方が39分長い。

 

スター・ウォーズ」の方が上映時間が長いため、1館あたり、1日あたりの来場者数は必然的に少なくなる。上映スクリーン数は「スター・ウォーズ」の方が約2倍以上と多い。「スター・ウォーズ」の上映スクリーン数は2倍以上だが、上映時間は2倍以下である。この点を踏まえても映画「妖怪ウォッチ」が「スター・ウォーズ」を上回る観客動員数を記録するとは、関係者のみならずとも予想がつかない事態だ。

 

この番狂わせが起きた理由としては、劇場ごとの座席数の違いなどあるだろうが、一番大きな理由として考えられるのは「妖怪メダル」である。当日の入場者先着順に配られる非売品の『エンマ大王メダル』を目当てに観客が殺到したことが考えられる。「メダル」の威力は大きい。2014年の映画「妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!」の前売券販売でも限定記念メダルをつけたが、希望者が殺到しすぐに売り切れる事態となった。結局、前売券を購入できなかった来場者にも、先着順で別のメダルを配布することでおさまったのだが、メダルの強さをまざまざと見せつけた形だ。今回もまたメダル効果と言える現象が続いている。

 

もう一つ理由がある。それは来場者層の違いだ。「スター・ウォーズ」よりも映画「妖怪ウォッチ」の方が来場客層が広い。映画「妖怪ウォッチ」の来場客は子供が中心だが、その子供を連れた親、連れられてきた兄弟、そして祖父母などまでが一緒に観覧するケースもある。先着順のメダルという目標に向かって、多くのグループで観覧に来るケースが多かったため、映画「妖怪ウォッチ」は「スター・ウォーズ」を上回ってスタートしたのだ。

 

引き続き、映画「妖怪ウォッチ」と「スター・ウォーズ」の争いがどうなるか引き続き注目したいところだ。