マーケティングの現状と未来を語る

世の中のニュース、トレンド、ブームをマーケティング視点からわかりやすく解説します

ベッキー復帰に見る「謝罪」手法の変化

5月13日、休養中だったタレント、ベッキーさんがTBSの「金スマ」で久しぶりにテレビ出演を果たした。復帰の是非、復帰の時期などについて、視聴者ひとりひとりの意見は異なると思う。ただ、ネット等の反応を見ると、週刊文春の記事が出た直後に行った会見後と今回の会見後では、今回の方が好意的な意見が多かったように見受けられた。

 

私はマーケティングコンサルタントの立場から、今回の「謝罪」「復帰」についてお話ししたい。

■ 謝罪会見の3つのポイント

 

企業に不祥事や問題などが起き、謝罪をする時にいくつかのポイントがある。その中で、もっとも重要な3つのポイントは、芸能界においてもあてはまる部分が大きい。謝罪会見における3つの重要ポイントは以下の通りだ。

 

1)すぐに会見をする

2)明確に謝る

3)嘘をつかない

 

ベッキーさんの場合、1「すぐに会見をする」と2「明確に謝る」に関しては休養前の会見で守っていた。しかし、肝心の内容に嘘が入っていたため、逆に大きな問題となってしまったのだ。今回、会見という形ではなくテレビ番組の中での謝罪という形になった。今回は、会見という形式ではなかったが、前回の失敗を活かし、3の「嘘をつかない」ということも守っていたのだろう。謝罪関連の内容としては、3つの重要なポイントを抑えた形になった。

 

■ 謝罪・復帰のやり方としてはひとまず成功

 

SNSでの取り上げられ方を見ると、今回の謝罪・復帰がどうだったのかという大まかな部分が見えてくる。最近「テレビを見ながらSNSで情報を発信する」という人が多い。今回も多くの人がこのスタイルで視聴をしていたようだ。

 

ツイッターを見ていると「金スマ」が放映された時間帯には「ベッキー」というワードで約15万のツイートがあった。内容を見ると、プラスの内容がマイナスの内容よりも上回っていた。休養前の会見では、圧倒的にマイナスの内容が多かったことと比べると、今回の謝罪・復帰についてのやり方は成功だったと言えるものだったのだ。

 

この中で、注目すべきは「中居くん」というワードだ。「中居くん」というワードでのツイートが約1万2千、「#金スマ」の約2万に次ぐツイート数だ。今回、ベッキーさんの謝罪・復帰をは記者会見ではなく、テレビ番組内での中居くんとベッキーの対話形式で伝える形にした。中居くんの厳しさと優しさのある率直なリードによって、ベッキーさんは言いづらいことも含め、伝えたいことを伝えることができた部分が大きかったのだろう。この結果、視聴者から中居くんへの評価も大幅に上昇した。SNSはポジティブにも、ネガティブにも、その方向性を加速させる傾向がある。今回は全体的にポジティブな方向に流れる形となった。

 

ただ、謝罪・復帰のやり方が成功で終わったことと、ベッキーさんがかつてと同じように今後も活躍できるということは同じ意味ではない。これから、どこまで活躍できるかどうかは、ベッキーさん次第になるだろう。

 

■ 注目すべき「一変した謝罪・復帰の手法」

 

今回、もっとも印象的なだったことの一つは、謝罪・復帰のやり方が大きく変わったということだ。一言でまとめると「伝えたい側が内容をコントロールしやすくなった」ということだ。

 

今までは、謝罪と言えば会見という形が普通だった。会見では、伝えたい側が謝罪などの気持ちを伝えるだけでなく、記者からの質問も受け付ける形が普通だ。緊張状態にあると、人は本来の状態で話ができなくなることもある。また予期せぬ質問が投げかけられることもある。その結果、話し方や内容まで、自分の意図とは異なる形で、相手に伝わってしまい、結果的に謝罪会見が失敗に終わるということが往々にしてあるものだ。

 

今回のように、テレビ番組などのメディアを利用することで、伝えたい側は、ベストな状態で、内容をコントロールして伝えることができる。ベッキーさんの謝罪・復帰だけでなく、年初に起きたSMAPの謝罪など、テレビ番組を使った手法が増えてきたのは、こうした理由からだろう。

今後も、伝える側にとっての予測不能なリスクを下げるためにも、芸能界においては、このような手法も増えていくのではないだろうか。

 

■ 今後、ベッキーさんの広告起用はどうなるか

 

今回のベッキーさんの謝罪・復帰のやり方自体は成功と言えるだろう。しかし今後、広告やテレビ番組での起用については状況は異なる。広告主の立場とすれば、タレントを起用する時、タレントの知名度だけでなくイメージや好感度も考慮する。したがって、広告主が今までのように、広告等に起用することは難しいだろう。

 

今回の「金スマ」でも3社のCMがACに差し替えられていた。このことからわかるのは、様子見をしたい広告主の気持ちだ。ベッキーさんが出演することで、視聴者がどのような反応を招くのか見極めたいという広告主の慎重な姿勢がここから見えてくるのだ。

 

広告主の慎重さを加速させることになった一つの例がある。この3月に、日清食品が行った広告キャンペーンだ。矢口真里さん、新垣隆さんなどを起用したCMを作成・放映したのだが、批判が殺到し、約1週間で取りやめとなった。広告のことを熟知している日清食品ならば、今回の起用がある程度の批判も来るだろうと想定してキャンペーンを始めたはずだ。しかし、それでも取りやめたという事実は、想定以上に消費者の反応に厳しいものがあったということだ。つまり、このようなケースでのキャラクター起用については、まだまだ慎重にならざるをえないことが浮き彫りになっただけでなく、他の広告主に対しても大きな影響を与えてしまったと言えるだろう。

『セブンイレブン VS ミスド』ドーナツ戦争の行方

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2016年3月、ミスタードーナツ(株式会社ダスキン運営、以下「ミスド」)は、2017年までに全体の3割にあたる約400店程度で「オールドファッション」など定番の6商品の価格をの1~2割を値下げすることを発表した。

 

この決定の裏には、コンビニドーナツとの競争が激化することへのミスドの戦略が見え隠れする。セブンイレブンは2015年よりドーナツの全国販売を開始したものの、2015年は目標数字には届かなかった。そのため、2016年初頭、セブンイレブンは味を始めとするドーナツの品質を改善し、ラインアップにも手を加えた。店頭の定点観察、店員からの話、私を始め食べた人の感想を踏まえると、改善されたセブンドーナツはかなり好評で、ミスドにとっては無視できないものになってきた。

 

私は2015年4月のブログ

allabout.co.jp

で、セブンドーナツはミスドにとって脅威にはならないと書いた。そして予測通り、2015年にはセブンドーナツがミスドを脅かすような状況にまではならなかった。ただ2016年に入り、セブンドーナツがリニューアルされたことで、状況は変わると私は推測している。ここ最近における定点観察やヒアリング、広告や販売促進活動などプロモーション活動の強化を見ても、セブンドーナツの状況は2015年までとは明らかに違うのだ。ミスドも、この状況を把握した上で、今回の決定を下すことにしたのだろう。

 

■ ミスド「定番値下げ」の背景

 

今回のミスドの戦略が、セブンイレブンを始めとするコンビニドーナツへの対抗策であるのは、値下げする主要品目を見ても明らかだ。値下げする商品の中心は「定番商品」だ。

 

マーケティング的に言えば、価格を下げることにより、販売量を増加させることは、難しいことではない。しかし、価格を下げることは、短期的には販売増というメリットを享受できる反面、中長期的に見ればリスクもある。なぜなら、消費者心理を考えれば、一度下げた価格を再び上げることは難しいからだ。だから、企業が価格を下げる場合、キャンペーンなど期間に制限を設ける形で実施することも少なくないのだ。

 

販売を増加させるために価格を下げるということはマーケティングの最終手段と考えるべきなのだ。特に企業にとって安定的に売り上げが計算できる「定番商品」を値下げするということは大きな判断となる。ミスドはあえてその安定的な部分にメスを入れた。本来、「定番商品」は値下げすべきものではないが、それでも値下げをしなければならない現状をミスドは感じているのだ。

少し話は逸れるが「定番商品」値下げについて豆知識的なことをお伝えしたい。基本的には「定番商品」は値下げすべきではないと伝えたが、定番を値下げした方が良いシチュエーションもある。それは、数年、数十年にも渡り販売されており商品認知度は高いものの、利用・購入経験や利用・購入意向を持つ消費者が少なくなっているケースだ。この場合、値下げをすることで、消費者の利用・購入率は上がり、「定番商品」のイメージ・販売を再活性化させるのだ。この結果、休眠客(長い間、利用・購入していなかった客)や新規客が増える。そのため、中長期的にも成長軌道に繋がっていくのだ。

 

■ ミスドの「定番値下げ」の意味

 

今回のミスドの「定番値下げ」戦略が興味深いのは、販売不振による「定番値下げ」ではない点だ。ミスドがあえて「定番商品」を値下げしたのは、コンビニドーナツへの対抗策ということはデータからも明らかだ。ここ数年、ドーナツ専門店の市場規模は約1200億円で横ばいが続いている。確かに、コンビニドーナツは2015年に約200億円、2016年にはさらなる成長が見込まれているものの、ミスドが「定番値下げ」を決定した時点においては、ドーナツ専門店の市場を獲得できていない。つまりミスドが「定番値下げ」を決定したのは、コンビニドーナツが脅威となることを見越して、先手を打つ形で行われたものなのだ。

 

売上が悪くないにも関わらず、ミスドに「定番値下げ」を決定させた大きな理由は、コンビニドーナツ、特にセブンドーナツの品質改善、味の向上が進んでいるためであろう。コンビニでは、オールドファッションなどミスドの定番商品とそっくりの商品が販売されている。ただ、2015年は、見た目こそそっくりだが品質、特に味には大きな違いがあった。そのため、セブンイレブンのドーナツは話題性抜群で登場し、発売当初こそ売上は良かったものの、リピーターが増えず、販売は低迷してしまったのだ。

 

コンビニドーナツの品質、特に味が改善がされた。こうなると、ミスドと見た目がほぼ一緒で、味も近くなり、価格は安い。ミスドの値下げは140円の商品が108円に、151円の商品が129円になっている。コンビニドーナツの主力価格帯は100円である。2015年までのように、コンビニよりも約30円から約50円高い状況のままでは、市場を侵食される危険性があるとミスドは危機感を募らせているのだ。

 

■ まとめ

 

ドーナツ市場全体を見る上では、どのようなシチュエーションでドーナツが購入され、食べられるのかというイートイン、テイクアウトの視点、手土産・おみやげとしての視点なども考慮に入れるべきではある。ただ、コンビニドーナツ最大の課題点であった品質・味が改善された以上、コンビニドーナツの成長は間違いない。店舗数の違いも大きい。1296店舗(2016年3月期第二四半期発表)のミスドに対して、セブンイレブンだけでも18572店(2016年2月現在、国内店舗数)と10倍以上の店舗数の違いがある。セブンドーナツの美味しいという評価が定着すれば、この店舗数の違いが波及効果を加速させていく。

 

ミスドの「定番値下げ」は2020年までに1年間に約200店舗ずつ改装していく中で、高付加価値商品を投入するのと並行して行われる予定だ。最大改装店舗は約1000店舗を予定している。マーケティングの理にかなった手法であると感じる一方、日々、改善を繰り返すコンビニのスピード感に負けてしまわないかという懸念は残る。ミスドにとって状況が悪化することがあれば、改装を待たずに「定番値下げ」を先行させることになるだろう。

「北海道新幹線」の喜んでばかりいられない現状

2016年3月26日、北海道新幹線が開通した。終着駅は新函館北斗駅函館市北斗市にとっては、自治体からも地域活性化への大きな期待が寄せられる。また東北地方の都市も、東京と北海道が新幹線で繋がることにより自分たちにもメリットがあるのではないかと期待を寄せている。3月中旬、私が盛岡を訪れた際にも、すでに駅ナカなど多くの店舗で北海道フェアが開催されていた。

 

開通初日、メディアは華々しくニュースや記事で取り上げたものの、実際には「大成功」と手放しで喜べない状況が北海道新幹線にはある。第一号列車こそ、チケット発売と同時に即完売状況になったが、それ以降降の予約率が極めて低いのである。

 

■ 予約が埋まらない理由

 

北海道新幹線が通る地域の期待とは裏腹に、開通日から9日目までの予約率は平均約25%程度。これは何を意味するのだろうか。簡単に言えば、熱心な鉄道ファンだけが北海道新幹線に関心を抱いたということだ。したがって、初日の第一号列車だけが即完売し、他の列車の予約率が極めて低くなってしまっているのだ。北海道新幹線の予約率が低迷している理由は、飛行機との比較による3点に集約できる。

 

まず、第一の理由は「価格」だ。札幌に行く場合は別として、函館に行く場合には、どちらが安いかはケースバイケースと言える。早割、キャンペーン価格、LCCを利用するかどうかで変わってくる。北海道新幹線にとって、必ずしも大きなアドバンテージにはなっていないのが現状だ。

 

第二の理由は「時間」だ。東京駅から函館まで北海道新幹線行くよりも飛行機で行く方が約1時間ほど早く到着する。

 

第三の理由は「到着場所」だ。北海道新幹線の終着駅は新函館北斗駅だ。北海道の中心である札幌が終着駅ではない。新幹線が北海道の中心である札幌まで延伸するのは2030年の予定だ。しかも、北海道第二の都市、函館駅へ行くにも、終着駅からさらに15分ほどかかる。

 

飛行機よりも、価格メリットは薄く、所要時間は長く、到着場所の利便性も低い。企業の経費節減方針や外国人観光客増加による宿泊施設の逼迫から、今や日帰り北海道出張もあるビジネスマンにとって、時間と場所のデメリットは大きい。また、プライベートで利用したい人たちにとっても価格が、大きなデメリットとなっているのだ。

 

■ JR北海道の課題

 

いまさらの話になるが、本当は、JR北海道がやるべきは、北海道新幹線ではなく、寝台列車のような「旅の時間そのものを楽しむ」戦略の強化であった。言い換えれば「交通手段=移動」からの発想の転換が必要だった。すでにJR九州は、移動自体をエンタテインメントにする努力を見せている。また、発想の転換という意味では、JR東日本などは駅ナカ事業に力を入れており、輸送だけにとどまらない幅広い展開を見せている。JR各社とも知恵を出し、工夫をしているのだ。

 

先の述べたように、JR九州は鉄道を、ただ人を運ぶだけの「交通手段」から、乗っていること自体に楽しみを付加した「エンタテインメント」へと昇華させた。その代表例が豪華寝台列車ななつ星」である。日本にはお金と時間のある高齢者が増えていることを踏まえ、JR九州は数十万円以上という高価格の「ななつ星」をスタートさせ、大成功させている。九州と同じ以上に北海道には観光資源が豊富だが、JR北海道からはその魅力を最大化させる方策があまり聞こえてこない。

 

北海道新幹線の現状は「新幹線を開通させました。これから地域が活性するように頑張ろう!」という声に聞こえる。地域の活性化は題字ではあるが、JR北海道が来て欲しい観光客やビジネスマンの声は置き去りにされており、ニーズが反映されているとは言い難い。かつて高度経済成長の中、日本列島改造論を打ち出した田中角栄首相の時代であれば、それも良かっただろう。交通インフラを整備し、建物を建てれば、日本は成長していった。しかし、今は時代が違う。日本の人口減少化、地方の疲弊も進んでいる。かつてのように鉄道を引けば、高速道路を引けば、その地域が活性化していく時代ではないのだ。

 

■ 好調「北陸新幹線」と何が違うのか?

 

ここで2015年3月に開通した北陸新幹線との違いを確認したい。北陸新幹線が受け入れられたのは「時間」のデメリットの解消だ。飛行機の場合、飛行機で東京から小松空港を利用して金沢市街地へ行くよりも、新幹線で行くほうが便利である。また金沢自体、文化・歴史・食事等、観光都市としてのポテンシャルがもともと高い街である。アクセスのしにくさから、観光客が増えなかったが、新幹線が開通したことによって、もともとある魅力がさらに開花した形になったのだ。

 

北海道新幹線の場合、終着駅が新函館北斗駅という馴染みのない場所であることも影響し、主に観光客に対しての打ち出し方が曖昧になっているように感じる。特に観光客にとっては、そこに行けば、どんな楽しみ方ができるのかが重要である。このあたりが曖昧になっている。

 

■ 「北海道新幹線」の活路を開く方策

 

2030年に予定されている札幌までの延伸が実現すれば、乗車率は大きく向上するだろう。しかし、何もせず10年以上、現状を放置することもできない。いくつかの方策はあるが、現状では函館を売りにするのが最も現実的な乗車率改善策であろう。

 

函館は観光都市としてはポテンシャルが高い。古い町並み、美しい夜景、函館朝市に代表される美味しい海産物、五稜郭、はたまたラッキーピエロのような函館でしか味わえないB級グルメ。歴史・食事等、充分魅力あるものが多い。ただ北海道観光と一言でまとめてしまうと、どうしても札幌には負けてしまっていた。その点、北海道新幹線は、東京から函館駅にはダイレクトにはいかないものの、終着駅である晋函館北斗駅から15分程度で到着することができる。函館観光ならば、羽田空港まで行き飛行機に乗って行くよりも、東京のど真ん中である東京駅から函館に行く方が便利で楽しいというPRをしていくべきだろう。

 

ただ、これだけではメリット付けがまだまだ弱い。これから地元を売り込んでいきたい地域は、まだ知られていない地元の食の魅力を、もっと積極的にアピールする必要がある。アピール方法は数多くの手法がある。例えば、新幹線にはワゴンサービスがある。ワゴンサービスは有料だが、ワゴンサービスの際に、乗客が好きなものを選んで、無料で頂けるサービスくらい踏み込んでも良い。一口二口食べられる形で良いのだ。いくつかの商品を揃えることで、選ぶ楽しみも増え、乗客満足度も上がる。また選択肢を用意することで、次回もまた乗車してみようという気持ちを少しでも向上させる効果も期待できる。場合によっては、新幹線が通過する北海道の地域だけでなく仙台、盛岡、青森などが、相乗りしても良いだろう。これらの都市も、北海道新幹線が開通したことで、より多くの人が来て欲しいと思っているからだ。

 

開通した後に、北海道新幹線の必要性や魅力をどう高めるかを考えるというのは、率直に言えば本末転倒だ。しかし、開通した以上、無策で赤字やジリ貧の状況を続けるのは経営としてありえない。北海道新幹線にとって、時間、価格、到着場所を変えられないならば、別の形で乗客にメリット付けを考えるなど早急に活路を見出す方法を講じるべきだ。JR北海道だけでなく、地方自治体、観光協会、旅行会社などとも協力し包括的な策も必要だ。お祝いは終わった。JR北海道にとって、これからを考えることこそ重要である。

なぜ福岡県観光プロモーション「ぴりから」は注目に値するのか。

2016年2月から福岡県が開始されたキャンペーンが面白い。「内容」もさることながら「ビジネスモデル」の作り方もおもしろい。

キャンペーンの内容を簡単に説明すると、福岡の「食」「文化」「歴史」等について、7人の著名人がWEBで小説を書いていくというものだ。小説では、執筆者7人が、福岡県での実体験や思い出を語る。2月12日の配信開始以降、毎週金曜日に更新される仕組みだ。

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■ なぜ、この7人が選ばれたのか?

執筆者は、ホリエモンこと堀江 貴文さん、 2015 年の直木賞受賞作家である東山彰良さん、人気放送作家の鈴木おさむさん、「ビリ ギャル」著者の坪田信貴さん、アナウンサーの小林麻耶さん、モデルの田中里奈さん、「伝え方が 9 割」で有名な佐々木圭一さんの7名。

 

ここでのポイントは、福岡出身の人たちと福岡出身ではないが福岡の良さを実感した人たちがリアルに起用されている点だ。地方自治体が、地方活性化のプロモーションをしていく上で、一人のキャラクターを立てて、一方的にメッセージを発信するケースはある。しかし今回のプロモーションでは、一人のイメージキャラクターを起用するのではなく、複数人の人たちを起用し、それぞれが実感ベースで情報を発信するようになっている。ある一つのメッセージ、例えば有名な特産品や観光地がかなり魅力的で、そこに照準を絞ってアピールできる自治体もある。その一方、一つのメッセージではインパクトが打ち出せなかったり、逆に、魅力がたくさんあり過ぎて一つのメッセージでは魅力を伝えきれない地方も少なくない。福岡県はまさに多種多様な魅力があったため、一つのメッセージに絞らなかったのだろう。

 

人選にも工夫がみられる。著名人であれば、誰でも良いわけではない人選が見える。堀江さんや東山さんのように福岡に住んでいた著名人たちが地元の魅力を語るというプロモーションにも出来ただろう。しかし、あえて福岡出身以外の人たちも入れ、福岡の魅力を語ってもらうことによって、福岡の魅力を伝える内容に深みが出ている。

 

今回、クリエイティブディレクターでもある佐々木圭一さんが行った手法は、福岡県のみならず、全国各地の地方自治体が参考になるやり方だ。一つのメッセージに絞るのではなく、そこにゆかりのある人達が、それぞれに感じている魅力を発信することで、多岐に渡る魅力を伝えることができる方法なのだ。

■ 「既存×既存=新しい魅力」というモデル

最近、地方自治体のPRも、とても頑張っている。特にWEBにおけるムービーが一般的になってからは、それぞれの自治体が工夫をこらしている。方言がフランス語に聞こえるということで話題になった宮崎県小林市の移住促進PRムービー “ンダモシタン小林”、特産品である刃物をアピールする岐阜県関市のPRムービー「もしものハナシ」など。アイデア一つで、日本全国へ魅力を伝えることが可能になった。

 

佐々木さんも約20年に渡り、クリエイティブに携わる仕事をしており、こうした流れは当然把握し、作成することも可能だっただろう。ただ、こうしたブームにおいても、あえて別の切り口を持ってきた。それは前章でも書いたように、福岡県の魅力を伝える上で、一つに絞るよりも、多種多様な魅力を打ち出すことが有効だと判断したからだろう。そして、伝える手段として、ムービーではなく、別の切り口が良いと判断したのだろう。

 

率直に言えば、Web小説も、著名人起用も珍しいことではない。ただ、いくつか新しい試みが入っている。一つは「ぴりから」な格言を小説には必ず入れるというテーマが著者に与えられている点。もう一つは、リレー形式で書かれる中で、前の著者の小説の要素を、次の著者が反映しなければならないという点だ。このように、新しく面白い試みだからこそ、多種多様な業界で活躍する著名人たちが登場してくれることに結びついたのだろう。

 

ちなみに、今回のプロモーションの作り方は、地方活性化のクリエイティブの話のみならず、ビジネスモデルを作る上でのヒントにもなる。一つ一つは珍しくない「既存」と「既存」のアイデアを、ある視点を付け加えつつ昇華することで、まったく新しい魅力や価値が生まれるという好例でもあるからだ。

■ イメージPRに終わらない仕掛け

地方自治体のPRというと、イメージアップを目指して作られるものの、ともすれば、なんとなくやって終わったというケースも少なくない。今回のプロモーションにおいては7名の執筆陣が小説の中で、オススメスポットを紹介している。つまり、単にイメージを伝えるのではなく、具体的な情報を提供し、読者が行動するところまで落とし込む設計がされている。

 

そして、一般の方々に対しても、福岡にまつわる小説を募集している。一方的に情報を伝えるのではなく、一般の方々も参加できるような「巻き込む」仕掛けを作っているのだ。ちなみに商品は「めんぶらん」。福岡の特産品である明太子の形をした万年筆モンブランが、最も素晴らしい作品を書いた人に当たる仕組みになっている。モンブランは高級万年筆という高いブランドイメージがあるが、そのモンブランから許諾をもらった点もなかなかである。モンブランマニアのみならず、この遊び心満点のめんぶらんが欲しいがゆえに、応募する人もいるのではないだろうか。

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■ 最後に

地方自治体の魅力を伝えるムービーがブームではあるが、福岡の魅力を伝えるために、何をすれば良いのかという目的をしっかりとらえ、始まった本プロモーション。奇をてらうことなく、丁寧に企画が作られ、調整が行われ、進んでいる。本プロモーションは、多くのビジネスマンにとって、プロモーションのみならずビジネスモデルを作る上でも、参考になる手法でもあるだろう。

pirikara.jp

 

 

アイドルビジネスに革命をもたらした「みんなの山本彩」

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NMB48山本彩さんが出した写真集「みんなの山本彩」が話題である。話題の理由は、写真が一般のファンから集まった600枚で構成されているからだ。3週間限定で、オンオフ問わず、山本彩さんを撮影し、写真を送ってもらうという画期的な試みがなされたのだ。

 

書店に行き、実際の写真集を手にとって見てみた。遠くから撮ったためピントが微妙だったり、構図がぐちゃぐちゃなものも少なくない。また、鼻の中が見えるようなアングルから撮影されたもの、無防備な表情をしているもの、おかしなポーズを撮っているものなど、こんなものを出して良いのかと思える写真もあり、中身はカオス状態だ。

 

私は山本彩さんのファンではないのだが、ここ最近の彼女の活動には注目していた。ツイッターで発信される内容は面白い。AKBグループのトップの中でもリツイートされたり、お気に入りにいれられる数はかなり多い。2015年冬、男性誌「GOETHE」の秘書特集では、秘書の雰囲気で巻頭を飾るなど、また異なる一面を見せていた。彼女については、ファンでない私よりも、ファンの人の方がはるかに多くのことを語れるとは思う。ただファンではない私のような人が、気になるような言動が最近増えているのも事実だ。そこに来て、今回の写真集。率直に興味深いと感じた。

 

■ 一般的な写真集と今回の写真集の「違い」とは何か

 

一般的な写真集と、今回の山本彩さんの写真集の「違い」はなんだろうか。主に3つの違いがある。

 

まず「コスト」面だ。カメラマンやカメアシも必要なく、メイクも必要なく、スタイリストも必要なく、スタジオ費も、ロケハン費も、ロケ費も、海外渡航関連費も必要ない。つまり、コスト面で圧倒的にプラスになるのだ。数百万円かかる費用がゼロに近くなる。

 

つぎに「イメージ」面だ。一般的に、タレントのイメージを管理することがマネジメントの仕事である。しかし、今回の写真集では、管理は最小限にとどめられている。ファンから送られてくる写真の取捨選択がメインだ。しかし、この点においても、普通では考えられないほどストライクゾーンが広い。

 

最後は「オンオフ」面だ。従来のタレント活動では、オンとオフが切り分けられていた。仮にオフショットの撮影でも、ある意味オンと言えるものだった。しかし、今回はオンでもオフでも撮影される可能性がある。これらの点において、今回は今までのものとはまったく異なるのだ。

 

■ アイドル像の変遷

 

1980年代半ばまでのアイドルは言動が完全にコントロールされていた。ファンとすれば、テレビの向こう側にいる、まさに偶像だったのだ。それが変わってきたのは1985年に出現した「おニャン子クラブ」。彼女たちの出現によって、自分の近く、現実にアイドルは存在するのだということを実感することになった。そして1997年のモーニング娘。、2005年のAKB48と出現した。今さら言うまでもないがAKB48のコンセプトは「会いに行けるアイドル」である。ファンとより近くになったアイドルたちは、メディアに出たりしている間も、作られた魅力ではなく、自分自身の魅力を最大化させようとしてきた。

 

山本彩さんがやったことは、そのさらに先を行くものだ。オンの時にだけ、自分自身の魅力を最大化させるのではなく、オンでもオフでも「素」の状態をさらけ出したのだ。作られたオンだけでなく、イメージコントロールの効かないオフの状態を魅力と感じてもらえるかどうかはファン次第である。正直、これは大きな賭けであったろう。ただ、こうして成功したことは、山本彩さん自身の魅力があったということである。そして、このビジネスモデルを仕掛けたことは、賞賛に値する。

 

■ 写真集に自分の名前が掲載されるファン心理

 

採用された写真を撮影した人たちは巻末に自分の名前(ペンネーム)が列記される。一部、高柳明音さんのようにAKBグループメンバーの名前も入っている

 

が、ほとんどはファンである。ファンにとって、自分自身でアイドルを撮影し、その写真が写真集に掲載され、自分の名前が掲載される一連のプロモーションは、応援度をますます強めることにつながるだろう。

 

そもそも自分の名前が作品に掲載されるのは嬉しいものだ。余談になるが、私自身、数年前に、自主映画の制作に関わらせていただいたことがある。その映画は、アトランタ国際映画祭でアワードをいただくまでになったのだが、エンドロールに自分の名前が掲載されていたのは嬉しかった記憶がある。私やスタッフだけでなく、エキストラなどで協力してくれた人たちの名前も同様にエンドロールに掲載された。アトランタでの受賞後、帰国し上映する時には、自分たちが映画に関わった証を一目見ようと、全国各地から、協力してくれた人たちが映画館を訪れた。ファンにとって、作品に参加する喜びがどんなものなのかを実感した経験だった。

 

■ Arai’s EYE<山本彩さん写真集のビジネス的意義>

 

新しいビジネスモデルが芸能界に誕生

 

オンオフ問わず、すべてをさらけ出すという行為は、素の自分に相当の自信と力がないと成立しない。トップアイドルのポジションにありながら、リスクを恐れず、新しい試みに踏み切った山本彩さんとスタッフには、次に何をしかけてくれるか大変楽しみになってきた。

 

関係者ではなくファンが芸能人の作品を作る。今回は写真集だが、今後は写真集だけでなく、より幅広い方向に拡大していくことだろう。ビジネスの世界でも言えることだが「共感度」が強いコンテンツは支持が高くなり、拡散される傾向が高い。その点、今回のような「共感度」が高くなるファン参加型の企画は話題にもなりやすいのだ。したがって、今後出てくる別の「共感度」が高い企画も大きな話題になることは大いに期待できる。

 

「みんなの山本彩」は、芸能界に新しいビジネスモデルの誕生を予感させる大きな一歩と言えるのだ。

「名前募集バーガー」を食べ、感じた『マクドナルドの未来』

日本マクドナルドホールディングス(以下、マクドナルド)の2016年1月の月次セールスレポートによると、全店売上高は前年同月比30.9%増、既存店売上高35.0%増、客数17.4%増、客単価15.0%増となった。マクドナルドにとっては、久しぶりに大きな明るいニュースとなった。

 

■ 「名前募集バーガー」

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「北海道産ほくほくポテトとチェダーチーズに焦がし醤油風味の特製オニオンソースが効いたジューシービーフバーガー(仮称)」(「名前募集バーガー」と略す)を食べた。これは、単に新商品を発売するだけでなく、消費者から名前を募集し、決定した人には10年分のハンバーガーに相当する賞金をプレゼントするというプロモーションにもなっている。

 

さっそく、このハンバーガーと、新発売のマックチョコポテトを食べてみた。率直に言えば、ハンバーガーは、全体的なクオリティは従来のマクドナルドよりは上だと感じた。特に印象的なのはバンズが美味しくなっていることと、ポテトの食感が強いことだ。マックチョコポテトに関しては、甘さとしょっぱさが相まって、なかなか面白い味だ。ただ、どちらも、すごい美味しいかと言えば、そうではない。ハンバーガーも、スイーツも、もっと美味しいものは山ほどある。ここで言う「おいしい」とは、マクドナルド内の比較で言えば以前よりも美味しくなったということだ。

マクドナルドにとってはこれで良いのだ。マクドナルドにとって「味」は最大の価値ではない。「味」はそこそこで問題ないからだ。

 

■ 出尽くした悪材料

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レポートで、売上高、客数、客単価がプラスになった理由は、新メニュー投下によるものだけではない。大きな要因の一つは、マクドナルドの低迷がようやく「底」を迎えたということだ。2014年7月の食品消費期限切れ問題や2015年1月の異物混入問題なども安全問題、カサノバCEOの会見のミス、本社による日本マクドナルド株の放出報道など、ここ2年間近くマクドナルドにはネガティブなニュースばかりが目立った。

 

業績の悪化に歯止めがかからず、2015年から2016年初頭にかけて、約150店舗以上を次々に閉店させるという事態も招いた。不振を脱するため、ようやく2015年の夏くらいから、それまでのやり方を見直すようになった。カウンターメニューを復活させ、店頭オペレーションを改善し、不満が続出したFC店への配慮を高めるなど、マクドナルドは地道な努力を続けるようになってきたのだ。

 

■ 店頭の努力

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マクドナルドがこうした努力を続ける中で、消費者としても、マクドナルドをこれ以上拒否し続ける理由が薄れてきた。

 

一連のネガティブなニュースを受けて、子供の頃からマクドナルドを好きでよく食べていた人たちですら、マクドナルドを食べることを止める時期が長く続いた。しかし、子供の頃に刷り込まれた味は、時に恋しくなるものだ。ある時にフッと思い出し、たまにはマクドナルドに行って、フライドポテトやハンバーガーを食べても良いかと思うようになったというの実情だろう。

 

そして、約150以上もの店舗が閉店されたことも消費者心理に影響を与えた。最近は行かなくなった人も、子供や学生の頃にはよくマクドナルドに行っており、それぞれに思いでもある。長い間、当たり前のように見ていたマクドナルドがなくなることを残念に思う人も少なくなかったのだ。後ろ姿のドナルドが手を振るシーンのポスターはSNSでも、数多く拡散され、久しぶりにマクドナルドに好意的なムードが出てきた。そこに現場の改善状況が重なった。

 

もともとマクドナルドは店員の「スマイル」、つまり雰囲気の良さを売りにしてきた。そこそこ美味しく、そこそこ安い、そしてとても楽しい場所であることがマクドナルドの売りだった。スターバックスコーヒーが、家と会社の間にある、くつろげる第三の場所を提供することを売りにしていたのに似て、マクドナルドも、味や価格ではなく、店が醸し出す空気感そのもので、多くの人に支持されていたのだ。

 

2015年春までのマクドナルドは、本部と店には明確な上下関係があった。数字もやり方も本部の指示に従うことが求められた。本部の利益追求主義によって、FC化が促進され、その結果、店頭が疲弊した。2015年半ば、消費者から見放され続けたマクドナルドの本部は、そのやり方を見直し始めた。店頭視察をする中で、少しづつではあるが、明らかに店頭の動きが変わってきたことを感じるのだ。

 

最近、店頭のスタッフが中心になって、子供たちにハンバーガーを作る教室を開くなど、マクドナルドとお客さんが杓子定規ではなく、あたたかいやりとりで繋がるようなプロモーションが増えてきた。今回の「名前募集バーガー」プロモーションにおいても、お客さんから応募を募るだけでなく、店員自ら、こんな風に名付けますという直筆の案を店内に掲示していた。

 

つまり、店頭が本部から「やらされる」という受動的な姿勢から、自ら「やろう」という能動的な姿勢に変わってきたのだ。これがマクドナルドが上向きつつある大きな要因になっている。

 

■ Arai’s Eye<復活の鍵>

 

企業の存在価値を正しく見極める。

マクドナルドは「現場」の魅力にあり。

 

マクドナルドは「低迷の底」を過ぎ、「現場も改善」しつつあある。消費者のネガティブムードも少しづつ和らいできた。マクドナルドという会社にとって、これからどこまで復活できるかは、美味しいメニュー開発に没頭することではない。それよりも、マクドナルドが日本中から愛された店頭や店員の雰囲気がどこまで取り戻せるかによるのだ。かつてオリエンタルランドとともに、日本最高のスタッフ教育を誇ったマクドナルド。どこまで基本に立ち返れるかどうかが、マクドナルドの復活の鍵になるだろう。

「大塚家具」リニューアルで感じた久美子社長の本気

 

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2016年2月5日、大塚家具からリニューアルに伴う内覧会のDMをいただいたので、時間をやりくりして新宿のショールームを訪れた。私は日本最大級の展示スペースを誇る有明本社ショールームに訪れることが多いのだが、この日は時間がなく新宿を訪れた。実際のリニューアルオープンである6日に先駆けての案内だ。

 

新宿店の受付スタッフに聞くと、有明本店などのリニューアルはまだこれからで、新宿が一番早いとのことだった。新宿店で見たのは、今までの大塚家具とは異なる大塚家具の姿だった。そして、そこでは、大塚久美子社長の意気込みのようなものがじわじわと伝わってきた。

 

■ 店内入口の「スター・ウォーズ」コーナー

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店内に入り、まず驚いた。今までの大塚家具とは異なる姿がそこにあったのだ。大塚家具と言えば、高級家具・インテリアがメイン商材だ。新宿店の入口は2ヶ所ある。そのどちらの入口そばにあったのは「スター・ウォーズ」コーナーだった。

 

甲州街道沿いの入口には、少し前に話題となったハイアール製 R2D2等身大冷蔵庫が販売されていたり、ダースベイダーの頭部型冷蔵庫(350ml缶が1本だけ入れられる)が、残り展示品のみで販売されていた。そのほか、フロアマット、ウォールパネル、コースターなど、インテリアのための小物も種類豊富に販売されていた。20種類あったクッションは大塚家具でしか販売していない商品だと店員の方が説明してくれた。

 

また、反対側の入口展示スペースでは、一つ一つの商品を見せるのではなく、部屋をレイアウトした形で見せていた。

 

■ 変化のシンボル1 <スター・ウォーズ

 

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スター・ウォーズ」以外の1Fのスペースを見ると、やはり今までの大塚家具の雰囲気とは異なる明るめのカラー、ポップやキュートを感じさせる色使いの小物や家具が目立った。雰囲気でいうと、ACTUSフランフランなど20代から30代の女性に支持されそうな雰囲気だ。その小物や家具は、決して既婚者や大家族向けのものではなく、独身女性が購入しても違和感のないように感じた。この点も今までの大塚家具とは異なる。今までの大塚家具は、主に既婚者がターゲットである。しかも比較的、年齢も、可処分所得も高い人達が訪れる店舗であった。若い人達がいたとしても、その親と来ており、一緒に選んでも、支払いは親というケースも多々見受けられた。

 

したがって、内覧会を見る限り、今までの販売アプローチとは大きく変わったというのが印象だ。

 

■ 変化のシンボル2 <EDITION BLUE>

 

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1Fスペースで、驚きを与えてくれたものの一つに「EDITION BLUE」がある。EDITION BLUEは、久美子氏が社長就任以前に、外苑前にオープンさせた北欧系のテーストを感じさせる若者向けのインテリアショップだった。ところが経営権を巡る親子の争いが勃発し、2014年、業績不振により久美子氏が社長解任されると、EDITION BLUEも閉店してしまったのだ。もともと社長就任以前から久美子氏は、若い人達へアプローチすることを考えて、外苑前のEDITION BLUEや目黒のMorgenmarkedなど、従来の大塚家具とは別の店舗を展開していた。それが争いの中で閉店に追い込まれていたのだ。社長となり、再び主導権を握る中、新宿店の入口そばに、EDITION BLUEの文字とともに、若者向けのインテリアが大々的に展開されていたことは、まさに久美子社長が考える「新しい大塚家具」への意気込みを感じさせるものだった。

 

■ お土産はアンリ・シャルパンティエのサブレ

 

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DMを持参した来場者へのプレゼントはピンク色の箱に入ったアンリ・シャルパンティエのハート形サブレだった。これも従来の大塚家具の顧客層からすれば、ジャストフィットではない。ただ、ここでも久美子社長は「大塚家具は変わる」ということを貫いて主張したかったのだろう。EDITION BLUEやプレゼントを見るだけでも、久美子社長が自ら強い思い入れを持って、今回のリニューアルを主導してきたことが手に取るようにわかる。

 

■ 小物取扱強化とポイントカード

 

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今回のリニューアルでは、小物の取扱いも大幅に強化された。高級家具になればなるほど、一生に何度も購入するものではない。今までの大塚家具のやり方は、祖父母から父母へ、父母から子へ、子から孫へと、大塚家具はお客さんとの関係を世代を超えて続けるやり方であった。だからこそ、結婚する時、新居を建てる時などに、自分ではなく、その親が人生の一大イベントのプレゼントとして購入することも多かったのだ。

 

小物を強化するということは、人生の一大イベントに購入してもらう従来とは異なり、日常的に来店し、購入してほしいというやり方だ。導入されたポイントカード(IDCパートナーズ、 gIDCはゴールドパートナーズ。購入金額100円ごとに1ポイントたまる。1ポイント1円として買い物やサービスメニューに利用可能)は大塚家具に何度も来てもらい、購入してもらうことを目的とするツールだ。頻度高く来てもらい、小物などを購入してもらう中、いずれベッドやテーブルなどの高額商品も買ってもらいたいという意図がそこに見える。冒頭で取り上げた「スター・ウォーズ」の展開も、話題性を作り来てもらい、小物を買ってもらうことが目的だ。

 

■ Arai’s Eye<総括>

 

今回の視察で、大塚家具が従来から大きく変わろうとしていることを肌で実感した。またその裏に、大塚久美子社長が強い主導権を持って、経営面だけでなく、マーチャンダイジング面やPRなどの広報宣伝面においても関与していることが伺えた。

 

比較的高齢な富裕層をターゲットした家具全般の御用聞きビジネス中心から、自分らしく日々の生活の質を高めて生活したい若年層をターゲットにしたライフスタイルショップ的ビジネスをより強化する形を取った。

 

確かに近年の日本の経済状況を見れば、この戦略シフトは新しい需要の取り込みとして理にかなっているように見える。しかし、そこにはすでに複数の競合企業がいるのも現実だ。興味深い取り組みではあるが、この道は大塚家具にとって決して楽な争いではない。今後は、従来からの強みであるホスピタリティ、深く広い商品知識、深い信頼関係にある顧客対応に加え、魅力的な品揃えの強化継続、定的的な話題作りなどがより重要になってくる。経営者として、短期的な結果も求められる中で、大塚家具はこうした活動をより一層強化してくることだろう。